2011-01-01から1年間の記事一覧

怒りの書

必要があって、犬塚稔『映画は陽炎の如く』(草思社、2002)を拾い読みした。犬塚(1901-2007)は見ての通り106歳まで生きた脚本家、映画監督だが、これはその自伝とも言うべき、しかし相当の怒りに満ちた書である。犬塚は、「座頭市」が自分の創作である…

暗夜行路

藤枝静男の講談社文芸文庫『志賀直哉・天皇・中野重治』を、魔がさして買ってしまった。別に後悔はしていない。弟子である藤枝の、志賀に関する随筆・評論を集めたもので、最後に表題作が載っている。 しかし順番がおかしいだろうというのは、こう来たらまず…

武藤康史へご注進

講談社文芸文庫から出た里見とんの随筆集『朝夕』は、新編集ではなくて、もともとあったものを文庫化したもので、私は元本を持っているのでもちろん買わなかったのだが、某人から、巻末の著作一覧の文庫のところに、私が編纂した中公文庫『木魂・毛小棒大』…

鴎外の娘・小堀杏奴の『朽葉色のショオル』は、私は旺文社文庫版を持っているのだが、講談社文芸文庫版には年譜があって、長女・桃子は横光利一の次男・佑典と結婚、長男・鴎一郎は、嘉治玲子と結婚したとある。この玲子というのは、聖心女子大学名誉教授の…

前言撤回

http://d.hatena.ne.jp/jun-jun1965/20111002 ここに書いたことだが、取り消す。というのは、「脅し」に至る経緯を冷静に見ればまったくひどいもので、ノイエホイエが、脅したほうがいいと判断したのは正しい、とせざるをえないからである。そもそも脅された…

サヨナラ、サヨナラ

淀川長治の「サヨナラ、サヨナラ、サヨナラ」は、当初回数が決まっていなかったが、回数で賭けをする子供がいると聞いて三回に決めたというのは有名な話である。 ところが高見順日記を読んでいたら、「サヨナラ、サヨナラ、サヨナラ」というのは、『百万人の…

時岡四姉妹

『文學界』新年号に谷崎昭男「『細雪』もう一組の四人姉妹」が載っている。昭男は潤一郎の弟・精二の次男で、1944年生まれなので67歳。後妻の子なので若い。相模女子大名誉教授で、保田與重郎の弟子、保田全集を一人で編纂した人である。 内容は、『細雪』の…

http://naokiaward.cocolog-nifty.com/blog/2011/12/36311956-6c06.html これを読んで、そうだそうだ、と思った。今東光が追放されたって、谷崎や川端がついているんだから、おいそれと完全追放ということはない。 その直後、平浩一という人の、もう一人の「…

『現代虚人列伝』という本があって、これは70年代に『現代の眼』に連載されたもの。その都度執筆者は違う。まあ左翼雑誌だから、保守派文化人を批判するもので、朝比奈宗源なんてのが筆頭に来る。江藤淳もいて、これは岡庭昇が書いているのだが、なぜかいき…

書店へ行ったら『深沢七郎外伝』という本が出ていた。外伝? 正伝はどこにあるの?って感じ。(相馬庸郎のが正伝なのか) こないださる魔女さんに神林長平を勧められたので『言壺』を読んでみたのは、SF大賞受賞作だからだが、未来のワープロみたいな機械…

『自慢するバカ』で一番読んでほしかったのは、文学俗物がありがたがるのは、吉田健一、内田百けん、ボルヘス、須賀敦子、尾崎翠、ってあたりだったんだけどな。あと白洲正子、はあれは文学俗物というより「和」俗物だな。(百けんの「けん」を正しく入れた…

虫プロが倒産したのは、1973年11月のことで、私は小学校五年生であった。『新八犬伝』を観ていた当時で、その日は月曜だったから、六時のテレビニュースで、それが流れたのであろう。「漫画家の手塚治虫さんの…」と来たから、台所仕事をしていた母が「えっ、…

図書館の変なおじさん

…まあ脇から見たら私こそが変なおじさんなんだろうが、今日図書館へ行くと、閲覧コーナーは、二つの丸テーブルと一つの長方形テーブルがあって、丸は椅子が四つ、四角は六つ置いてある。雨もよいの平日だからすいていて、丸一つにおじさんが座って何か読んで…

新刊です

「昔はワルだった」と自慢するバカ (ベスト新書)作者: 小谷野敦出版社/メーカー: ベストセラーズ発売日: 2011/11/09メディア: 新書購入: 1人 クリック: 56回この商品を含むブログ (14件) を見る 特定の誰かを念頭に置いて書かれたものではありません。 訂正 …

ピアレビューって何?

http://www.nakahara-lab.net/blog/2011/11/post_1808.html この文章を読んで、ははあ東大准教授ともなると40くらいでこんな「たてまえ文」を書くのか、と感慨にふけった。 英文学会とか比較文学会というのは確実に会員が減っていると思う。だいたい院生とか…

林芙美子の弔辞

(活字化のため削除)

電子書籍の実態

電子書籍に希望を見出す人がいる。しかし先日、私の本の一冊が電子書籍になった、その支払い調書が送られてきた。印税は110円。桁を間違えたわけではない。売れたのは一冊である。 公共図書館に学術書をリクエストしなさい、そうすれば図書館は劇的に充実す…

志摩半島の渡鹿野島には、娼婦がいて「はしりかね」と呼ばれる。辺見じゅんに『海の娼婦はしりかね』(角川文庫)という本があるのだが、これはルポルタージュ集で、はしりかねについてはごく僅かしか書かれていない。ちゃんと書いてあるのは岩田凖一『志摩…

コンビニはうるさいもの

私のよく行くコンビニは、ファミリーマートとコミュニティストアである。コミュニティストアが一番近いので、夜になってふと何か必要になったりすると行く。ここは普通の雑貨屋だったのがコミュニティストアになったらしく、私には居心地がいい。いつも放送…

吉行淳之介のこと

私はどうも吉行淳之介という作家のどこがいいのか分からない。関根英二という、吉行で博士論文を書いた米国在住の学者がいて、その人に会ったこともある。この人は吉行が好きで好きで、しかしアメリカへ渡ってからそれがフェミニズム的にいかんと気づいて、…

今月の『群像』の「侃侃諤諤」で石原慎太郎が出てくるところ、文藝雑誌しか読んでない人には意味が分からなかったと思うのだが、これは『新潮45』に載った石原と福田和也の対談で、石原が、こないだふとあることを書かせてもらいたくて某文藝雑誌に電話した…

上林暁の怨念

「あなたはなぜ戦えるの、守るべき人もないというのに!」 とかララァ・スンが言ったりすると、守るべきものは自分だよオラ、自分を守るために闘っちゃいけないのかよオラ、とか言いたくなる。別にララァに限らないのだが、戦闘アニメ・特撮の主題歌にはなん…

『文藝春秋』に、「私のモテキ」とかいう小文集成が載っているのだが、西村賢太はいいとして、井上章一と齋藤孝は、結婚できたということを、まったく「もて」の範疇に入れていないから驚く。井上さんの、地位でもてるのは嫌だ、というのは前からのことだが…

トントンのずんずん調査

あまり気づかずにいたのだが、『細雪』舞台版は、1966年以来、東宝系の劇場でロングランしている。菊田一夫作で、菊田一夫というのは本当は偉い人なのだ、ってまあ舞台関係者には当たり前だが。 『細雪』の主役は蒔岡四姉妹で、サイデンスティッカーによる英…

中西進先生

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20111109-00000110-san-soci ちょっと驚く。中西先生は82歳であるから、ずいぶん年下の奥さんだが、二度目の奥さんのはずである。水難事故で死んだ娘というのは、多分この奥さんの連れ子だったと思う。これも当時中西先生…

中山茂激白

私が『文学研究という不幸』でも書いた、駒場の中山茂が、自ら当時の経緯を語っている。 http://nakayama-hs.cocolog-nifty.com/blog/2010/05/post-b621.html そんなに面倒なら、ほかの大学へ行けばいいじゃないかと私も思わないではない。私ならそうする。 …

新人学者月評

高見順日記 1962年6月8日、 「車中、大佛次郎『帰郷』を読む。やっぱりどうも通俗小説(―高級な通俗小説)だなと思う。残念な気がする」 - 『文學界』に「新人小説月評」という欄がある。二ページ、新進の批評家が、一頁ずつ受け持ち、半年の任期で、前月号…

著書訂正

『猫を償うに猫をもってせよ』227p 「『荒涼館』の初訳は一九六六年の筑摩世界文学全集…その後世界文学大系に入った」→「一九六九年の世界文学大系(筑摩書房)である」 - 『続高見順日記』第一巻 1961年1月8日 NHKへ。教養特集「現代人としての青年」の…

四つの偶然

(活字化のため削除) - 新潮文庫から川端現代語訳として出ている『竹取物語』は、石浜金作がやったものだ。しかるに、沼尻利通という、福岡教育大准教授の論文を見たら、そのことにはほとんど触れていなかったので驚いた。この人は平安文学が専門だから知ら…