2020-05-01から1ヶ月間の記事一覧
一般向けの本を出す時、著者や編集者が、題名に凝ることがある。営業は特にそうだ。だが、題名だけで本が売れるということは、まずない。珍奇な題名をつければある程度は売れるが、中身が伴わないと、途中で止まる。 だが逆に、もう少し題名を何とかできなか…
米国の州の名前を聞いても、どこだか分かるのと分からないのとがある。アラバマというのは、『アラバマ物語』などという映画もあるのに、私は知らずにいた。ジョージア州の西隣、つまり南部である。 そのアラバマを、ビルとスタンという二人の軽薄そうな若者…
前衛映画というのがあるが、私は一般的には苦手である。『去年マリエンバートで』なんかまったく意味不明だし、ゴダールでさえだいたいはダメである。コーエン兄弟もダメ。しかるに、前衛風でそこにエロティシズムとか奇妙な味わいがあるといいのである。キ…
「紳士協定」は、一九四七年にエリア・カザンが監督したグレゴリー・ペック主演の社会派映画で、当時高い評価を受けたが、なぜか日本公開は四十年遅れ、一九八七年のことだった。日本人はユダヤ人差別になど興味がないと思われたか。 フィル(ペック)はカリ…
私はどうもあの「韓流ドラマ」というのが好きではない。日本でもビデオ撮りのドラマは、昔はぎらぎらした色調だったが、最近では抑えて映画に近い色あいを出せるようになった。しかし韓国のドラマは今でもぎらぎらで、ただ少しずつ直ってきてはいるようだ。 …
脚本家・橋本忍が監督した『幻の湖』は、公開当時不入りのため早期上映打ち切りになったが、その荒唐無稽な内容のためカルト映画と化したもので、私も好きである。 『光る女』は、小檜山博の原作を相米慎二が映画化したもので、当時それなりに評価はされたの…
バート・ランカスターは、奇妙な俳優である。もとはカウボーイなどを演じるアクション俳優かと思ったら、演じる役は多彩で、ヴィスコンティの『家族の肖像』『山猫』とか、『エルマー・ガントリー』とかが印象に残る。 そのランカスターが主演して、それなり…
谷崎潤一郎原作映画は第一回に「紅閨夢」をとりあげたが、新しい谷崎全集も出るし、神奈川近代文学館で展覧会もやっているというので、もうひとつ取り上げる。 名作文学の映画化はうまく行かないと言われるが、林芙美子の『浮雲』とか、ぼつぼつあることはあ…
かつて「笑い」で一世を風靡した、と言われるものを、今映画などで観てもちっとも笑えないということがある。エノケンやマルクス兄弟で、私はけっこう、面白くないので困ってしまう。マルクス兄弟など、もしかすると、経済学のマルクスとは違うぞという意味…
小説でも映画でも、私はリアルなものが好きである。もちろんそれは、戦争とかセックスとか殺人とかの陳腐なものではなく、人があまり描かないリアリティであってほしい。吉田恵輔の『さんかく』は、それをなしとげた希有な映画である。こういう映画が『キネ…
カラミティ・ジェーンは、西部開拓時代に実在した女ガンマンである。といっても美しいわけではない。それを、ドリス・デイが演じて、楽しいミュージカル映画にしたのが、これ。 実のところ、私はドリス・デイには何の興味もなかった。ヒッチコックの『知りす…
サトエリつまり佐藤江梨子が私は好きなのだが、これは『キューティハニー』を観て以来である。ふだんの如月ハニーとキューティハニーに変身してからの声の違いが見事だ。 「すべては海になる」は、話がどこへどう転がるか分からない。山田あかねの原作を自ら…
ジェニー・アガターという女優は、日本ではあまり知られていない。私がジェニーを知ったのは、『鷲は舞い降りた』で、チャーチル暗殺を企てるドイツ兵らの支援のため、いきなり英国の村に現れたアイルランド人役のドナルド・サザーランドにたちまちたらされ…
小学校六年生の時、どうも私はけっこう幸せだったらしい。三年生で埼玉県へ引っ越してきて、二年ほどはなじめなかったのか、友達も一人しかいなかったが、五年生になってから土地に慣れたのか、友達も増えた。 そんな時、音楽の時間に聴いたのが、シューマン…
山田洋次といえば、もはや国民監督である。歌舞伎興行を主とする松竹を一時期経済的に支えた「寅さん」の監督であり、渥美清が死んだあとも、「たそがれ清兵衛」など、藤沢周平作品の映画化など、ことごとく当たり、かつ批評家からも評価される、恐るべき男…
リチャード・アッテンボローが死去した。訃報は「ガンジー」の監督として紹介したが、私はアッテンボローはやはり俳優としてのほうが優れていたと思う。と言えば「大脱走」だろうが、私はリチャード・フライシャー監督のミュージカル映画「ドリトル先生不思…
武智鉄二といえば、かつての歌舞伎演出家で、のちエロティックな変な映画を撮った人として知られる。最近も、歌舞伎評論家で直木賞作家の松井今朝子が『師父の遺言』で武智のことを書いている。武智は谷崎潤一郎を師と仰ぎ、その戯曲「白日夢」を原作として…
ノースロップ・フライは『批評の解剖』の序文で、最近はミルトンの株は下がっているようだ、といったことは学問的批評ではないと述べている。とはいえフライも、聖書やシェイクスピアを自分が率先して論じることにはいくらかの矛盾は感じていただろう。 この…
河野多恵子の長編『後日の話』(1999)は、イタリアのトスカーナを舞台に、ある男が処刑される寸前に、自分の妻が死後別の男にとられないように、妻の鼻を食いちぎってしまう話の後日談である。元ネタはブラントームの『艶婦伝(好色女傑伝)』にあるフラン…