松本健一「蓮田善明 日本伝説」の感想

私は日本の敗戦とともに連隊長を殺して自分も自殺した、三島由紀夫の師として知られる蓮田善明というのがあまりに嫌いで、これまで蓮田を論じた本すら敬遠してきたのだが、松本健一は右翼なのか左翼なのかという疑問がわいたのと、すでに故人であり、読んで憤激してその著者(たとえば井口時男)に手紙を送りつけたりする心配がないので読むことにした。

 小高根二郎が書いた蓮田伝にある、殺された連隊長が対馬の出身だが、元の姓を金という朝鮮人が中条家へ養子に来たとあるのは、大分県の陳という日本人の家から養子に来たのであるということを明らかにしたのが前半の、ないし本書の特質である(1990年に『文藝』に一挙掲載)

 しかしその後は、万葉集志貴皇子の和歌を論じて蓮田が、若い者にとって死こそが文化だと右翼的ファナティックを述べていたことをめぐって、松本がずるずるとそちらへ引き寄せられていくだけで、やっぱり右翼は嫌だなあ、と思ったばかりであった。

映画「崖下のスパイ」感想

チャン・イーモウの最新作で、1930年代満洲での、中国共産党工作員と日本の特務警察の虚々実々のやりとりが描かれている。拷問シーンもあったりして陰惨だが、日本人もチャイナ人が演じていてチャイナ語でしゃべっているのが変だし、日本人の中に共産党員のスパイが入り込んでいるという設定なのだが、それは普通言葉でばれるからありえないだろうと思う。概して、共産党に監督が魂を売ったような映画であった。

映画「メランコリア」感想

ラース・フォン・トリアーは飛行機に乗れないそうで、私も乗れないという点で共感している。これはさる映画本で紹介されていたので観た。シャルロット・ゲンズブールが出ていて、メランコリアという地球と同じくらいの大きさの惑星(?)が地球に衝突するという話だが、パニック映画ではないから天変地異シーンはまったくない。二時間以上続き、概して退屈な映画だったとしか言いようがない。

松本俊彦「誰がために医師はいる」感想

エッセイストクラブ賞受賞作というので読んでみたが、半分くらい読んで、これは私には合わない

と思いやめた。まず著者の中学時代の話が、あまりにも特殊すぎて受け入れるのが難しく、こんな

環境でよく勉強できたなと思う一方、著者の両親はどうしていたのかが書いていない。次にこの著

者はラインホルド・ニーバーの言葉をNAの集会に行くまで知らなかったらしい。精神科医ってそ

の程度のものかと驚いた。あと自動車マニアらしいのが、自動車は無差別殺人機械だと思っている

私には受け入れられない。

 むろん、人によっては面白かったり有益だったりするのだろう。

小谷野敦

織田作之助「わが町」感想

織田作之助「わが町」は1943年に書下ろし刊行された長編で、1956年に川島雄三監督、辰巳柳太郎主演、南田洋子の二役で映画化されたのを観たことがあるが記憶にない。1959年に森繁久彌の主演・演出で「佐渡島他吉の生涯」として劇化され、何度か再演された。

 大阪を舞台とし、明治から昭和までを生きた車引きの佐渡島他吉とその孫娘を描いた市井もので、オダサクにはこんな長編もあったのかと、『直木賞をとれなかった名作たち』に入れなかったのを済まなく思った。のちに山崎豊子が大阪ものを掲げて登場するが、オダサクはその先駆とも言うべく、大阪弁のセリフが達者で、全体に読みやすい。岩波文庫に『わが町・青春の逆説』として入ったのが2013年で、それまで埋もれていたのはなぜだろうと思ってしまう

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2022年度小谷野賞

2022年度小谷野賞を発表します。

 

原基晶『ダンテ論  『神曲』と「個人」の出現』(青土社

西村賢太『雨滴は続く』(文藝春秋

年森瑛『N/A』(文藝春秋

(奨励賞)目時美穂『たたかう講談師 二代目松林伯円の幕末・明治』(文学通信)

 

なお小谷野賞は面識のない人物の著作などで、ほかの賞を与えられていないものに限って授与され、本人への連絡はしません。西村賢太は、一度も会ったことはなく、途中からは住所すら分からなくなったので面識のない人です。