2026-01-01から1年間の記事一覧

「キャンディ♡キャンディ」のストーカーを勇気づける部分

水木杏子原作、いがらしゆみこ作画「キャンディ♡キャンディ」の最後のほうで、最初のころイライザとともにキャンディをいじめていたニール・ラガンが、キャンディの魅力に気づき、結婚したいと言い出す。アードレー家のエルロイ大おばさまがそれを認めて、あ…

大人ぶる

ふと思い出したんだが、私が大学生のころ、さる先輩が、希望した職種に就職することができず、コンピューター会社とかに就職が決まったことがあった。ところがその先輩は深く落ち込んでいて、どこに就職することになったのかと訊いても黙って答えないという…

わからない小説

今回の芥川賞を受賞した「ゾンビ回収婦」は私には理解不能な小説だった。前回の「叫び」「時の家」も理解不能な前衛だったし、その前には井戸川射子など、最近、前衛小説の受賞が増えており、井戸川に至っては売れないのに各社が単行本を出すという異例の状…

蝉谷めぐ実『見えるか保己一』書評(週刊読書人掲載)

蝉谷めぐ実は三十三歳くらいか。大阪生まれで、早稲田で歌舞伎を学んだ。独特の文体は、誰も真似できないと言われた泉鏡花を思わせ、若くして山田風太郎賞などいくつかの文学賞を受賞しているが、直木賞はまだ候補にもなっていない。それまで、歌舞伎に親し…

おもちゃ屋にて

私が高校二年の時まで住んでいた越谷市谷中町では、自転車で30分くらいのところにあるスーパー「マルヤ」で買い物をするのが普通で、その向かいに「越谷マンション」というのが建っており、その一階が書店、電気店、奥におもちゃ屋などがあり、私はよくそこ…

ラジオと独歩

私は小学校六年生の終りに、お年玉でラジカセを買った。テレビの音声が12チャンネルまで入る最新型のもので、それで「新八犬伝」の最後のほうを録音したり、「真田十勇士」を録音したり、「みんなのうた」を録音したり、「基礎英語」や「中学生の勉強室」を…

野間賞と谷崎賞とブッカー賞

『文学界』八月号の巻末随筆で、松浦寿輝が、カズオ・イシグロのインタビューに触れて、ブッカー賞について語っている。イシグロは、英国のブッカー賞は80年代に、ロングリスト、ついでショートリスト(最終候補)を公表することによって世間の文学好きの…

柏原兵三と小堀桂一郎

柏原兵三(1933-71)というのは、夭折した芥川賞作家で、東大独文科から大学院へ行き、68年に「徳山道助の帰郷」という、母方の祖父である陸軍中将をモデルとした小説で芥川賞をとり、盛んに執筆したが、東京芸大助教授だった71年に脳出血のため38歳で死ん…

九割はクズ

アメリカのSF作家シオドア・スタージョンが、SF作家の集まりで演説して「SFの九割はクズです」と言い、ざわめきが起こったところで「すべてのものの九割はクズです」と言ったという「スタージョンの法則」は有名である。私の『レビュー大全』という本…

桝屋友子さんの思い出

桝屋友子・東大東洋文化研究所教授が、6月21日に64歳で病気のため亡くなった。7月5日が葬儀だったという。桝屋さんはイスラーム美術が専門で、年齢は一つ上で、長崎県の出身である。私が知っているのは、大学時代私が所属していた「児童文学を読む会」にいら…

「女学者丁々発止!」と金塚貞文

私の最初の本『八犬伝綺想』が出たのと同じ1990年6月に『女学者丁々発止! われいかにしてフェミニストになりしや・ならざりしや』という軽装版の本が出た。当時話題の女学者たちに島崎今日子がインタビューしたもので、佐伯順子さんも出ていたので見つけて…

岡崎祥久「キャッシュとディッシュ」アマゾンレビュー

この表題作は『文學界』に載った時、倉本さおりに教えられて読み、その哀切さは「フランダースの犬」どころではないと思い、私が勝手に作っている「小谷野賞」受賞作にした。それが倉本らの尽力で一冊になった。倉本が解説を書いているが、倉本は触れていな…

伝記のウソ・ホント

丸谷才一の伝記を書こうかと思っても、日記や書簡などの資料がないとちゃんとしたものは書けない。本人の自伝から再構成する伝記というのはあるが、丸谷のように、私小説を嫌い、自分のことはなるべく秘してきた人は無理である。 学問的にいえば、日記や書簡…

秦恒平さんの思い出

作家の秦恒平さんが90歳で亡くなった。私と誕生日が同じだったが、「清経入水」で太宰治賞をとってデビューしてから、多くの小説・評論を書き、小森陽一が示唆した、夏目漱石の『こころ』で、「私」が「奥さん=静」と結婚するという結末を持つ「心・わが愛…

英文科の英語至上主義者たち

英文科には、翻訳で読むということをとことんバカにする学生というのがいた。もっとも私が知っているのは上のクラスにいた二人だけである。一人は角山(仮名)という、体育会系の男で、もう一人がアメリカ文学者になった竹本憲昭さんである。 私と同じ文三四…

大山祐亮「トンデモ学説をぶった斬ったら比較言語学の入門書になった件」アマゾンレビュー

星5つ中5つ 終わらせる勇気 2026年6月7日に日本でレビュー済み 大変素晴らしい本であった。トンデモ学説は相手にしないのがアカデミズムの作法で、相手にしたらその人自身がトンデモ扱いされるという中で、もしかしたら出世は捨てているのかもしれないが、最…

桜井浩子とひし美ゆり子の記憶力

昭和期ウルトラシリーズは、森次晃嗣以外の隊長役は全員鬼籍に入り(小林昭二、中山昭二、塚本信夫、根上淳、瑳川哲郎、名古屋章、東野英心(副)、三谷昇(副)、中山仁)、主役では団時朗が去り、隊員では二瓶正也、阿知波信介、池田駿介らが死去している…

西恵子の「あげてよかった」を観た

西恵子といえば、「ウルトラマンA」の美川隊員である。瑳川哲郎の隊長が出動命令を出す時、「美川隊員は私と一緒に」といつも言っていて、隊長機に同乗する美女である。初期ウルトラシリーズでは唯一、戦闘隊内に美人が二人いた片方である。 その西恵子の、…

歴史学に「まとめ」は必要か?-「観応の擾乱」を読む

垣根涼介の直木賞受賞作『極楽征夷大将軍』を読んだら、足利尊氏ー直義兄弟の奇妙な関係が前半は面白かったが、後半で観応の擾乱になってからはあまりに武将たちの動きがぐちゃぐちゃで難儀したので、亀田俊和の『観応の擾乱』(中公新書)を読んでみた。こ…

谷崎潤一郎の「一日」

谷崎潤一郎が『青春物語』に書いた若い頃の思い出から作成した年譜を見ると、明治43年に和辻哲郎らと第二次『新思潮』を創刊する前の年のこととして、「史劇「誕生」を『帝国文學』(編集長栗原武一郎)へ送ったが没となり、自然主義に妥協した「一日」を書…

間宮茂輔の「広津和郎」

間宮茂輔(1899-1975)というのは、プロレタリア作家で、戦後も左翼作家として活動したようだが、よくは知らない。広津和郎とも親しかったようで、1969年に最後の著作として『広津和郎』(理論社)を出しているが、娘の広津桃子の『石蕗の花』に、これを読…

2025年度小谷野賞

昨年度の小谷野賞発表です。 ・小川剛生『「和歌所」の鎌倉時代:勅撰集はいかに編纂され、なぜ続いたか』NHKブックス、2024 ・河原梓水『SMの思想史:戦後日本における支配と暴力をめぐる夢と欲望』青弓社、 後者は、題名はこんなですが著者は日本史が…

英文科から比較文学

四方田犬彦という人は、比較文学での修士論文がスウィフトだった。これは「「ガリヴァー旅行記」における対話的構造--スウィフトと文学的ジャンルの問題」として、四方田が30歳のころ、どういうわけか『比較文学研究』に一部が載ったのだが、その末尾には、…

小川哲『地図と拳』のん?

私は「満州国」ものが苦手である。ベルトルッチの「ラストエンペラー」も、安彦良和の「虹色のトロツキー」も、面白くなかった。ただ田中絹代が監督した「流転の王妃」だけは面白かった。これは皇帝溥儀の皇后が阿片中毒で、その禁断症状で苦しむところが、…

江藤淳と谷崎潤一郎

中上健次が、谷崎潤一郎をすごく気にしていたことは知られている。「物語の豚」などと罵りつつ、崇敬していたというに近い。それが一番如実に出たのは、1988年の江藤淳との対談「文学の現在-1-今、言葉は生きているか」『文藝』だろう。これは赤坂の菊亭とい…

佐藤愛子の「ヤキが回った」

私が高校一年の頃、母が佐藤愛子のエッセイ集『坊主の花かんざし』の1を買ってきて読んでいた。「『坊主の花かんざし』って何かしらねえ」と言うから、「土佐の高知の播磨屋橋で」あたりだろうと思ったが、何だかその時は面倒になって「漱石みたいなもんだろ…

樋口覚という人

伊藤整『日本文壇史』講談社文芸文庫の第一巻には、紅野敏郎の解説と、樋口覚の「作家案内」というエッセイがついている。この文芸文庫は、このように二つの解説を載せることがあるが、私はむしろ年譜をつけてほしいと思っている。樋口覚はこの文庫が出た199…

宇佐見りんとドストエフスキー

『ユリイカ』の「総特集 中上健次」に、宇佐見りんがエッセイを寄せていた。二年くらい前に大学を卒業して、大学卒が行くようなところではない接客業に就職したというが、発達障害などを抱えて苦労しているようだ。 その冒頭に、漱石の『明暗』に出てくる小…

「ル・プティ・プランス」と周辺の人びと

日本では内藤濯が長いこと独占してきた『星の王子さま』の題名で知られるサン=テグジュペリの小説は、大学生の時、「児童文学を読む会」の読書会で読んだ。リポーター(本を提案し、読書会をリードする役)となったのは笠浦友愛さんだったが、私にはこの小…

篠田節子『青の純度』(ラッセン関係)の真相

少し前に、原田裕規の書評がもとで話題になった篠田節子の『青の純度』(集英社)が図書館で借りられたので、読んでみて、驚いた。 原田は、これが明らかにクリスチャン・ラッセンをモデルにしているのに、なぜ自分が出したラッセンの研究書が参考文献から注…