2023-10-01から1ヶ月間の記事一覧

瀬戸内寂聴の表情

私は原一男が井上光晴を撮った「全身小説家」を、2000年ころに一度観かけて、あっこれはガンで死ぬんだと思い、つらくて観るのをやめたが、最近になって、改めて観た。井上が文学伝習所の女性参加者を次々と食ってしまうあたりが話題になっていたようだが、…

「これなら私にも書ける」

笙野頼子の「幽界森娘異聞」の講談社文芸文庫版解説は金井美恵子で、同作が泉鏡花文学賞を受賞した時、金沢で催された授賞式で笙野はいきなりある女性作家からおめでとうと握手を求められ、「これなら私にも書けると思った」と言われ、その後で会った金井に…

吉田知子「鴻」を読む

1971年から75年まで、新潮社から「書下ろし新潮劇場」という戯曲のシリーズが28点刊行されていた。当時、唐十郎やつかこうへいの小劇場がブームだったせいだろうが、別役実や安部公房、井上ひさし、秋元松代、山崎正和など劇作家や戯曲も書く人のほか、辻邦…

アリス・ドレガー「ガリレオの中指」を読んだ

著者はシカゴ郊外にあるノースウェスタン大学の元 教授で、科学史・医学史が専門の女性だが、生年は不明で、恐らく私と同じくらいだろう。『クイーンになろうとする男』という本を書いたマイケル・ベイリーについて書いたためキャンセルされたと思っている人…

主催者は部屋にいていいのか

2004年の1月から3月まで私は麻布高校の教室で、小浜逸郎が主宰する「人間学アカデミー」の講師を務めた。ところが第一回、小浜らに教室に案内されると、もう十二、三人の受講生が集まっていたが、そこへ小浜、佐藤幹夫ら三人以上の、主催者側の人間がどかど…

「アイヌ民譚集」の感想

最近、知里幸恵が採取した岩波文庫「アイヌ神謡集」の新版が出て、知里幸恵の名前がタイトルの上に来て中川裕の校訂になったことでいろいろ言われていたが、別にいいんじゃないか。大塚英志が、アカデミズムの在野への傲慢だとか書評していたが、これはむし…

急に薬をやめるのは危険

私は1995年8月に東大病院で処方を受けてマイナートランキライザーを呑むようになり、それまでのパニック障害や不安障害が緩和されていったのだが、それより前に群ようこのエッセイで、群が若いころ精神状態が悪くなりマイナートランキライザーを処方されて呑…

「高速道路家族」を観た

韓国の「高速道路家族」という映画を観た。「パラサイト」と似た設定だがこちらのほうが面白かった。両親に女児、男児の四人家族が高速道路のサービスエリアにテントを張って生活していて、生活費は父親が詐欺師になって、自動車を降りる人に、財布をすられ…

「ソフト/クワイエット」とピーナッツアレルギー

「ソフト/クワイエット」という映画を観た。全編ワンカットという触れ込みで、しかしこういうのはカメラが手振れするから観ていると酔う。 アメリカの田舎町で幼稚園の教員をしている30代のやや美人めの女が、知り合いに声をかけて五人で集会を持つのだが、…

開高健と池田健太郎の愛人・佐々木千世

私は開高健という作家に興味がないが、松浦寿輝はある程度関心があるらしい。「輝ける闇」「夏の闇」「花終る闇」というのが開高の「闇」三部作で、長い間かけて書いたものだが、「輝ける闇」はベトナム戦争のルポで、これは私が概して戦争ルポが苦手なので…

亀井俊介「マリリン・モンロー」は「新しく」はない

先ごろ亀井俊介先生が亡くなり、1987年に岩波新書から「マリリン・モンロー」を出したことが話題となっている。お硬い岩波がモンロー、というのは驚きであった、みたいな話である。だが、私はその当時から、これが驚きだとも、新しいとも思わなかった。何し…

司馬遼太郎「十六の話」の感想

司馬にこんな本があることも知らなかったのだが、1993年中央公論社刊を中公文庫でふと見つけた。どうも晩年に、まだ単行本に入っていないエッセイ類を集めたもので、しかし読み始めると、井筒俊彦の話、開高健の追悼文、仏像写真家の井上博通の解説文などが…

大阪大学の過去

ふと目に止まった本があったので取り寄せた。『ひとつの抗議 ある大学人事の裁判記録』(阪大教養第1003号による公募人事を考える会編、第三書館発行・新泉社発売、1980)で、届いて初めて知ったのだが、京大出身の元フランス文学者・西川祐子(1937- )が、…

音楽には物語がある(58)没になった音楽 「中央公論」10月号

ピンクレディーの「サウスポー」には、録音するところまで行った没曲があるということは前に書いた(阿久悠『愛すべき名歌たち』)。ピンクレディーのプロデューサーが、録音が済んだあと、これでいいのかと不安になり、都倉俊一のところへ駆けつけて、もう…

やむをえない自殺について

6月に「読書人」でインベカヲリ★さんと公開対談をしたのだが、残念ながらその内容は活字としてまとめられていないので、少し書いておく。 前にインベさんが「家族不適応殺」という、殺人犯(無期懲役)の男を描いたノンフィクションに続いて「死刑になりたく…

「男の凶暴性はどこから来たか」感想

類人猿学者リチャード・ランガムと、ライターのデール・ピーターソンの共著だが、まあランガムの論をピーターソンがまとめたものだろう。チンパンジーが小型サルのアカコロブスを集団で襲って殺して食う凶暴な動物なのは知っていたが、大人同士で殺し合うの…