小説を読まない人

小宮彰さんの追悼文に、前川裕さんのものがあった。やはり比較の出身で法政大で英語を教えていて、「クリーピー」で作家になった人だが、前川さんによると、小宮さんは小説を読まない人だったらしく、「クリーピー」読んだよ、とだけ前川さんに言ったという。…

著書訂正

「里見とん伝」 間違いというのではないが、里見の正妻まさと愛人お良は、会ったこともないと思っていたら、何かあると相談して里見家のことを決めていたということが分かった(「かまくら春秋」2022年10月号、伊藤玄二郎発言)

小宮彰さんと「左翼」

私の大学院の先輩に小宮彰(1947-2015)さんという人がいた。フランス科から比較文学に進み、東京女子大で長く教えていた。比較の集まりにも当初はよく姿を見せていたが、七年前に68歳で独身のまま急逝した。一冊だけ「ルソーとディドロ」という単著を死去の…

どうして男はそうなんだろうか会議 ――いろいろ語り合って見えてきた「これからの男」のこと ・澁谷知美・清田隆之編    アマゾンレビュー

フェミニズム系男性論星2つ 、2022/09/26渋谷や清田らは「フェミニズム系男性論」の書き手だから、本書もそういうバイアスの下で書かれている。私の『もてない男』は、批判したいならすればいいのに(しかも筑摩書房の本で)完全に無視。「セックスの相手が…

三進堂書店のおやじ

御茶ノ水駅南側丸善の向かいに古本屋があり、駿台予備校へ行っていたころや大学時代御茶ノ水へ出る時などよく寄ったものだが、ここのオヤジが何とも変な人で、カウンターに座って手でタンタタタンタタとリズムをとり、買う段になると妙に手早くむっつりとし…

小平麻衣子(おだいらまいこ)の<未熟>

小平麻衣子(慶大教授、日本近代文学)が「日本近代文学館」の館報で一ページ分の「配合と組み合わせ」というのを書いているが、何だか文章がぎごちなく、下手である。今度「日本近代文学大事典」の新版が出るので、その項目執筆をしていて、昔自分が書いた…

ゴジラ1万2千トンの衝撃

初代ゴジラは、身長50メートル、体重2万トンという設定だった。今では、この大きさの生物が地球上で直立できないことは常識になっているが、そのことはここではひとまず措く。 1974年ころ、テレビアニメ「コン・バトラーV」で、巨大ロボットコンバトラーVの…

音楽には物語がある(45)運動会と音楽 「中央公論」9月号

前にも似たようなことを書いたが、子供のころ、運動が苦手だったから、運動会の日は嫌だったとか書く人がいる。人形劇「プリンプリン物語」では、メガネくんキャラのカセイジンが、運動会の日はおなかが痛くなって休んじゃった、と言っていた。後者はともか…

「偏平足」の謎

「ドラえもん」の最初のアニメは、成功せず短期間で終わってしまったが、その主題歌に「偏平足だよ」という歌詞があった。これに限らず昔の言説に「偏平足」を笑いものにするものがいくつかあったが、なんで偏平足というのが笑いの対象になったのか、謎であ…

漱石の誤訳?

夏目漱石の「行人」に、メレディスの書簡に書いてある言葉が引かれている。それは、自分は女の魂をつかまなければ愛することができない、私は女の魂をつかまずに愛することができる男がうらやましい、というもので、これを引いた一郎は、自分は妻の魂を掴ん…

「いい子のあくび」断想

芥川賞をとった高瀬隼子の、唯一単行本になっていない「いい子のあくび」(「すばる」2020年5月)を参考のために読んだら、この作家のものとしては一番面白かった。主人公は25歳くらいの女だが、彼氏が25歳で、初めて友人の結婚式に出席すると聞いてちょっと…

「高名な学者になるのか?」

大学生の時「児童文学を読む会」に入っていて、五月祭と駒場祭では展示をやり、同人誌を作って販売していた。 私が三年生の駒場祭の時だったが、英文科の後輩にあるZ君と二人で、最前列に座っていたら、三十代くらいの男性が入ってきたので、同人誌の売りこ…

著書訂正

「面白いほど詰め込める勉強法」(幻冬舎新書) 63p「原作では男の医師が、中野良子の女医に変えられており」→原作でも女医

音楽には物語がある(44)柳家小三治と中田喜直 「中央公論」八月号

落語家の柳家小三治が死んで、『ユリイカ』で追悼特集をやった時、みなが小三治を礼賛する中で、放送作家の石井徹也の「私が知っている柳家小三治」は、ほぼ批判に終始していて、こういうのもなくちゃいけないと思った。実際小三治は、私は五十代のころは好…

差別しているかもしれない

フレデリック・ワイズマン監督のドキュメンタリー映画「ニューヨーク、ジャクソンハイツへようこそ」を観た。長くてつらいところもあったが、ぎょっとしたのは最後のほうで、身分証か何かをもらうための面接の準備で講習をしているところで、「東西南北」に…

原基晶「ダンテ論 『神曲』と「個人」の出現」アマゾンレビュー

ダンテはなぜつまらないか星5つ 、2022/08/06 私は長いことダンテが苦手だった。ベアトリーチェの話には恋愛の生々しさはないし、「神曲」は平川祐弘先生の訳で読んだがつまらなかった。平川先生の解説本も読んだが一向に腑に落ちなかったし、私には何だか平…

統一教会と原理研

私は仲正昌樹と同期だから、駒場キャンパスでは夕方、帰路につくところをよく原理研に誘われた。もちろん相手はしなかったが、夕飯のあと、居間で母にその話をしていたら、寝転がってテレビを観ていた父に母がその話をしたが、話をろくに聞いていなかった父…

「足で書く」が苦手

ノンフィクションの世界では「足を使って書く」ということが評価されがちだ。自分であちこちへ現地踏査したり、人に会って取材したり、ということだ。 学問でも小説でもそういうことはあるが、私は足を使って書くのが苦手である。もともと体が頑丈ではないか…

星光子の勘違いといくつかの謎

私は「ウルトラマンA」で南夕子を演じた星光子が好きなのだが、2004年ころ、星さんが、Aの中途での降板は知らされていなかったと告白したのは有名な話である。もっとも星さんはその時、翌週になったらウルトラの父が迎えに来てくれるんじゃないかと夢想した…

ボウルズとカミュ

『文學界』八月号の最後のページの連載随筆で、松浦寿輝が、二つの西洋の短編が似ているという話をしている。ポール・ボウルズの「遠い挿話」(1945)とカミュの「背教者」(1957)で、前者は四方田犬彦訳『優雅な贈り物』に、後者は窪田啓作訳『追放と王国…

書評「誰もいない文学館」(西村賢太)週刊読書人(訂正あり)

西村賢太には、冷たくされた。芥川賞をとったころ、あちらの著作が送られてきたので、お礼のハガキを書いたが、返事はなかった。それからこちらの著作も新宿の住所に送るようになったが、ある時期から宛所不明で戻ってくるようになった。王子に住んでいると…

伊藤整日記 全八巻  書評   (週刊読書人)

伊藤整日記が全八巻で完結した。十年ほどの期間だが大変な分量である。伊藤には「太平洋戦争日記」もあるし、日記つけは習慣となっていたようだ。伊藤は川端康成に近かったし、『新・文章読本』も代筆しているから、川端関連の事項を拾うつもりで読んでいた…

著書訂正

「川端康成伝」 p70「当時は中学校を四年修了すれば高等学校へ行けたが、康成は五年いて卒業 > している。」→四年卒業で高校へ行けるようになるのは二年あとなので削除。 p83「大正六年三月、茨木中学校を卒業。高校は九月開始だったため、試験は七 > …

橘家圓喬の辞世と京須偕充

京須偕充の『芝居と寄席と』の最後に、名人といわれた橘家(三遊亭)圓喬の話が出てくる。圓喬の最後について、『文藝俱楽部』の記事を引用している。そこに、苦しい息の下で圓喬が書いた辞世の句が出てくる。「筆持って月と話すや冬の宵」というのだが、京…

森銑三の西鶴論

『文學界』八月号に、角地幸男がドナルド・キーンについて書いている中に、森銑三の西鶴についての仮説に触れたところがあった。しかしこれは直接キーンとは関係せず、キーンと対談した石川淳が訊いたことなのでやや分かりにくい。 森は図書館勤めの「在野」…

やめろ、女

歌舞伎を観に行って、女の人がかけ声をかけるということも、昔はあった。前の團十郎のひいきらしく「成田屋!」とやっている人がいた。最近は聞かないが単に私が生の歌舞伎へめったに行かなくなったからかもしれない。 しかし京須偕充『芝居と寄席と』には、…

著書訂正

「美しくないゆえに美しい女たち」 岸田今日子の項:三遊亭金馬→桂文治(留さん文治)

阿部謹也と「世間」

阿部謹也(1935-2006)という西洋中世史学者に、私はあまり高い評価を与えていない。ロングセラーだという『ハーメルンの笛吹き男』は、あちらの研究を紹介しただけだし、『西洋中世の男と女』『西洋中世の愛と人格』など、当時博士論文のために西洋中世のこ…

音楽には物語がある(43)バッハとひのまどか 「中央公論」7月号

尾崎翠のような昔の作家を掘り出すとか、佐藤泰志のような死んだ作家を再評価するとかいうことがあるが、文学者で没後評価されたといえば、メルヴィルやスタンダールだろうが、クラシック音楽ではヨハン・セバスティアン・バッハというのが「忘れられていた…

岸田理生の恐怖

岸田理生という、2003年に57歳で死んだ女性の劇作家がいる。この時、岸田の思い出を書いた人がいて、それは男の劇作家か俳優だったと思うのだが、十数年前に演劇フェスティバルみたいなのがあり、終わってから、みなで雑魚寝しようという提案が出たら、岸田…