杉本苑子『随筆集霧の窓』(1992)アマゾンレビュー

星3つ - 評価者: 小谷野敦、2025年8月20日杉本苑子の随筆集を読むのは初めてだ。文化勲章受章の歴史作家としては何だかそのへんのおばさんみたいな筆致が眼だつなあと思って読んでいたらMOA美術館での失態がモーパッサンの短編にからめて語られていて、うわ…

杉本苑子の「冤罪」

杉本苑子の随筆集『霧の窓』(光風社書店、1992)に、1982年のエッセイが載っている。これはモーパッサンの「絲くず」という、絲くずを拾っただけなのに手帖を拾ったと誤認されて、冤罪を噂されて死んでいく男を描いた短編の話から始まる。というのは、近ご…

長島弘明先生の拙論評

拙著『謎解き「八犬伝」』をお送りした長島弘明先生からメールがあり、94年12月の『国文学:解釈と教材の研究』の「学会時評ー近世」に書いた文章を送ってくださった。「八犬伝の海防思想」についてのものだが、 「小谷野稿は、幕末の時代状況と『八犬伝』を…

三島由紀夫の「馬鹿笑い」とヨコタ村上

阪大にいた時、ヨコタ村上孝之が、田中角栄が「お食事券でございます」と言われたという小拙を聞いてゲラゲラ笑っていた。私はそれは前に聞いていて、ハハハくらいには笑ったが、ヨコタ村上の笑い方は激しく、「同じアクセントなんだよね」と言いながらゲラ…

売春の非犯罪化と合法化の違い

GROKに、売春の非犯罪化と合法化の違いについて訊いたら、割合ちゃんとまとめてくれた。しかし私は非犯罪化路線は支持しない、合法化でいくべき、つまり「売春規制法」などを作るべきだと考えている。 売春の非犯罪化と合法化の違いを簡潔に説明します。非犯…

スタンドプレイ

私が最初の妻と「結婚」した時は、恐ろしいことに帝国ホテルで結婚式をあげた。キリスト教式でやって、牧師が「誓いますか」と言った時、私は声を張り上げて「誓います!」と叫ぶという恐るべきスタンドプレイをしたのである。のち仲人(!)の平川祐弘がそ…

東大では「何期生」とは言わない

「鶴瓶のスジナシ」という、昔民放でやっていた番組がYouTubeに上がっているのをぽちぽち観ている。ゲスト女優(男優の時もあるらしい)と鶴瓶が、設定された舞台で15分ほどの即興芝居をやるやつで、最初に観たのは緒川たまきだった。 昨日、菊川怜が出てい…

妻の影響

私は確か2003年だったが、小浜逸郎に依頼されて、麻布高校で「人間学アカデミー」という三回の講義をした。その時、知らされていなかった小浜とか佐藤幹夫とか運営者側の人間がどやどやと最初から教室に入ってきて、不安感を抱いたのは前に書いた。しかも小…

宮島未奈『成瀬は天下を取りにいく』アマゾンレビュー

なぜ面白いのか分からないが面白い 4点 面白いのに、なぜ面白いのかが今一つ分からない。芥川賞をネタにした漫画「響」を思 わせるところもある主人公で、サムライ言葉でしゃべる。しかし先へ行くと、クラスの 中で浮いていて、島崎というのは唯一の理解者だ…

中丸美繪『タクトは踊るー風雲児・小澤征爾の生涯』アマゾンレビュー

あるつらさー3点 小澤の生涯といえば多くのクラシック好きはその概略を知っている。本書では「ボクの音楽武者修行」が直木賞候補になった作家がゴーストだったと知ることができた。メイスルズ兄弟による40年前のドキュメンタリーも言及されるが、そこで目立…

新刊です

久しぶりの新書です。 著書訂正 ・44P「番作が犬の与四郎の首を切り落とす」→「信乃が切り落とす」 *52P「堅苦しく律儀な貢献時代」→「封建時代」 *56P「土遁の術」→「火遁の術」 *65p「マクベス」→「ハムレット」 ・113P、「京都からの帰路、犬江親兵衛が…

岡潔『春宵十話』アマゾンレビュー

まるで非論理的 2点 著者は数学のほうで業績をあげた人だが変人でもあり、戦後はおかしな宗教に入ったり日本民族論をやったりして、小林秀雄との対談が評判がよく、あれこれ随筆を書いて、これは毎日出版文化賞をとっている。一時忘れられていたが、ドラマ化…

桑原武夫『『宮本武蔵』と日本人』アマゾンレビュー

桑原武夫と鶴見俊輔らが「思想の科学」で1949年ころから15年くらいかけてやった協同研究。国民文学とも言われるが大衆小説であったり戦時中に天皇崇拝を広めたりした吉川英治の研究。最初の読者アンケートで、武蔵自身はあまり人気がないのを掘り下げていな…

「あっぶねえなあ!」

大学生の時、私が滝野川にある、東大生が教えるというふれこみの家庭塾で教えていたことは前にも触れたが、そういえば学年的には私の後輩の男のことを思い出した。文系か理系かも忘れたが、ひどく軽薄な感じの、お笑い芸人みたいな顔をした男で、授業のあと…

七人のサムライ

私が行っていた海城高校ではいじめが横行していたことは「ミゼラブルハイスクール一九七八」に書いたが、二年生の時の副担任だったか、小太りの数学教師が時々朝の時間にやってきて何か話していった。この人はときどき、一年か二年前の生徒で、仲のいい七人…

厄介な校閲

私の「悲望」だったか、大学院時代を描いた小説に、「後輩の男が『よく(酒も飲まずに)生きてられるね』と言った」というような箇所があった。編集者がここを「られますね」と直したので、いや、そういう言葉遣いを後輩でもするやつだったんですよ、と言っ…

日本文化の猥雑な部分(2)

昨日の日記で、2000年以降つまり21世紀には様子が変わったことを示唆しておいた。実際、日本の大河ドラマのような歴史ドラマは、西洋、トルコ、東アジアなどで盛んに作られるようになった。日本のような歴史小説、つまり実在の人物を主人公にした小説がどの…

日本文化の猥雑な部分

「立ち読みの歴史」を読んで、日本文化の猥雑な部分に触れていたら良かったと思った。本文中、西洋には立ち読みがないという過去の日本人の証言に触れて、ないことはない、としているが、実は西洋の新刊書店というのは、日本のそれとは雰囲気が違って、ひど…

「立ち読みの歴史」アマゾンレビュー

小谷野敦 5つ星のうち3.0 想定の範囲を出ない。 2025年6月2日に日本でレビュー済み ちょっとこの本は前宣伝が激しくて、それから見ると特に想定外のことの書いてない本だった。普通に出版文化史の、ちょっと変わった角度から見たものと思えばいいのだろう。…

Ukiyo Grace Suzuki

1954年に、戦後日本の短編小説11編をグレース・スズキが英訳した『ウキヨ』という翻訳短編集が出ていたようだ。 Revenge / Mishima Yukio(三島由紀夫) The only one / Nakamoto Takako(中本たか子) One world / Serizawa Kojiro(芹沢光治良) Black out…

2024年度小谷野賞発表

2024年度の小谷野賞は、 戸川純「狂女、純情す」(『文學界』2024年8月)および同誌9月号の著者インタビュー に決定しました。どこかで単行本にしてくれることを祈りつつ。

田中美知太郎と女子学生

これは確か前に書いたのだが、どこに書いたのか忘れた。高校二年の時の「現代国語」の教科書(明治書院)の確か巻頭に、田中美知太郎の文章が載っていた。私はむしろ最後に置かれた田中の肖像写真に驚いたのだが、中身は哲学などを学ぶことについてであった…

山田風太郎「戦中派不戦日記」アマゾンレビュー

日本人必読の書かもしれない 5点 1971年に番町書房から刊行された、山田風太郎が22才の医学生だった1945年一年間の日記だが、実に分量は一年分としては膨大である。番町書房は十年ほど前、林房雄の「大東亜戦争肯定論」を出した出版社である。のちの作家・山…

辻由美『世界の翻訳家たち』アマゾンレビュー

信用できない著者 2点 著者の年齢を調べようとしたら、未公開だった。それはいいとしても、数多くの日本語の翻訳家へのインタビュー集である本書では、当然その翻訳家たちの紹介文があるが、そこでもすべての翻訳家の生年が書かれていない。さらに坂井セシル…

ぼんやりした思い出

大学一年の時は私は文三四組のドイツ語クラスにいたのだが、ここは全部で40人くらいのところに女子が9人しかいなかった。その中に田村泰美(仮名)という、愛知県から現役で来た女子がいた。成績は良かったようだが、はじめ相撲部のマネジャーをしていたが、…

将棋の思い出

二日ほど前から、youtubeで将棋の実況中継みたいのを見ていて、古舘伊知郎みたいな口調で解説するのが面白く、初めて将棋を面白いと思った。 私は父が将棋好きで教えようとしたのだが全然面白くなく、分からなかった。大学生の時、私は北区滝野川の個人宅で…

河野多恵子「塀の中」の珍

河野多恵子の初期短編で「塀の中」というのがある。丹羽文雄主宰の『文学者』に載ったもので、最初の短編集『幼児狩り』に入っていて、文庫にも入っているから驚いた。実に珍なる小説である。戦時中、女子挺身隊か何かで少女たちが働かされているが、そこへ…

山田みづえ「風のこゑ 次女ものがたり」Amazonレビュー

四点 谷崎潤一郎の「源氏物語」の校閲をした国文学者・山田孝雄の次女みづえは、のち俳人となり、句集や随筆集を出したが、これは随筆のほうで、若い頃、昭和十年から敗戦直前までのことを描いている。はじめ珍妙な俳句的文章だと思ったが、だんだん慣れてく…

下の名呼びの特別扱い

「ウルトラセブン」では、ウルトラ警備隊の隊員がほかは「フルハシ」「アマギ」「ソガ」などと苗字で呼ばれているのに、ダンとアンヌだけ下の名呼びの特別扱いを受けている。「ウルトラマン」でも、ハヤタは苗字呼びだし、「帰ってきたウルトラマン」でも郷…

柴田錬三郎「曲者時代」アマゾンレビュー

星3つ - 評価者: 小谷野敦、2025年4月25日1976年から77年まで「読売新聞」に連載された伝奇小説で、78年に死去した柴錬の事実上の遺作である。田沼意次、平賀源内、上田秋成、高山彦九郎ら実在の人物に対し、前天皇の異母兄だという閑院和仁こと禁門影人とい…