2024-06-01から1ヶ月間の記事一覧
大学一年の時のことだ。同じクラスの男が数人で雑談していた。愛知県から一浪で入ったNという男が、プロレスの話を始めた。そこへ、津金沢というやはり一浪の東京の高校から入ってきた男が、「プロレスなんて、八百長でしょ」と言った。するとNは、「まだこ…
「劇中劇」のように、小説の中に小説があるということがある。推理小説などでもあるが、それはまあ仕掛けだからいいとして、優れた小説が入っているという想定で小説が入っていると、これはなかなか厄介だ。 松本清張の「天才画の女」は、天才画家が現れたと…
『北の海』は、井上靖の自伝小説で、「しろばんば」「夏草冬濤」に続く、沼津の中学校を出て浪人していた半年の、柔道三昧の日々を描いている。翌年、四高の柔道部に入るよう誘われて金沢の四高を訪ねるのが表題の意味で、最後は神戸から両親のいる台湾へ向…
私が通っていた越谷市立富士中学校に、鶴渕先生という社会科の教師がいた。当時、40歳くらいだったろうか、顔にやけどがあった。何でも、一年か二年前までは理科の先生だったが、授業中の実験で爆発事件があったためで、そのため理科の先生をやめて社会科に…
『東京都同情塔』で芥川賞を受賞した九段理江が、受賞インタビューで「音楽が好き」と言ったので、おっと身構えた。音楽が嫌いな人というのはめったにいないので、この言葉には色々な意味がある。九段の場合、「ヒップホップが好き」と言っていたから、その…
八木詠美の「空芯手帖」 が太宰治賞をとった時、「ウソ」だったはずの「妊娠」がいつの間にか本当になっている意味が分からず、当時産経で文藝時評をしていた石原千秋に「最初にウソだと言ったのがウソだったんじゃないか」というはがきを出したりしたのだが…
私は、伝記を書いた作家、つまり谷崎潤一郎、久米正雄、里見弴、川端康成、近松秋江、大江健三郎、江藤淳の著作は基本的に全部読んでいるが、それ以外にほぼ全作品を読んでいる作家となると、車谷長吉と西村賢太になろうか。 車谷の「忌中」という非私小説が…
1962年 12月21日、茨城県水海道市(現常総市)三坂町(三妻駅そば)に生まれる。父建三は時計職人。水海道一高へ行っていたが肺結核で三年病臥し、大学へ行きそびれていた。母清子は中卒で銀行に勤めていた。 1965年 6月、同市森下町に平屋一戸建てを建てて…
「日本では昔は文系の博士号を出さなかった」というようなことを言う人がいる。これが「あまり」がついたり、「若い人には」がついたりすればいいが、「まず」「まったく」とか、「若い人にはまったく」とかつくと、それはデマである。実際には1924年以来多…