2015-11-01から1ヶ月間の記事一覧

博士論文の文学者

西本晃二先生の『落語「死神」の世界』は東大唯一の落語に関する博士論文である。西本先生はフランス文学の博士号はカナダのラヴァル大学でとっている。 それで、「落語」をキーワードにしてNDLで調べたら、博士論文は四つあった(全国で)。そこでほかの文…

「出口」と「種村」

『en-taxi』の最終号が届いた。この雑誌は、創刊号から送られてきて、しかるにいっぺんも原稿依頼がなかった。まるで玄関に黙って立っている女のようだ。 さてそこに、坪内祐三による出口裕弘の追悼文が載っていたので読んだのだが、どうもおかしい。種村季…

沖浦和光が死去した。沖浦は元英文学者で、のち日本の歴史・民俗の研究者になった。九年前、同氏が『「悪所」の民俗誌』(文春新書)を出した時、遊女は聖なるものかどうか論争があるが、私は聖なるものだと思いたい、今度はそういう本を書きたい、としてい…

サイデンステッカーと鶴田先生

サイデンステッカーの『源氏日記』は、『源氏物語』の英訳をしていた1971年から75年までの日記の抜粋で、場所は東京とアナーバー。これは面白い。中に鶴田欣也先生が出てくる。73年、トロント大学からブリティッシュ・コロンビア大学へ移る直前で、一緒に神…

若乃花(初代)涙の土俵

初代若乃花(のち二子山親方、理事長)は、横綱がかかった1956年九月場所前に、幼い息子がちゃんこの熱湯を浴びて死ぬという悲運に見舞われ、数珠を手に土俵入りして優勝した。 ところでこの事故について、 http://www.jiji.com/jc/v?p=legend0002 「ひっく…

未成年者喫煙禁止法

内田百間は子供の頃煙草を喫っていた。なんでかと訊いたら、「子供が煙草を喫ってはいけないという法律がなかったからだ」と答えたという話が逸話集に載っていたが、別に百間が奇抜なことを言ったわけではなく、明治33年(1900)に未成年者喫煙禁止法ができ…

木戸孝允の言葉

木戸孝允は、西南戦争の最中に病死した。その床でうわごとに「西郷も、もう大抵にせんか」と言ったことになっている。大河ドラマ『翔ぶが如く』では、田中健の木戸はそうしていたのだが、最近様子が変わってきている。『八重の桜』では、及川光博の木戸が、…

林真理子の『マイストーリー 私の物語』を読んでいたら、どうも腑に落ちないことが多かった。自費出版を描いたものだが、この題材では、百田尚樹の『夢を売る男』が傑作なので、難しい。さて帯の前面には「なぜ、ひとはこれほどまで『私』を曝け出したいのか…

林連祥とシンガポール

昔シンガポール大学にいた林連祥という教授の訃報が届いたのだが、私はこの林教授に会ったことはない。林教授は確か1992年に平川・鶴田組を招いて漱石『こゝろ』の学会をシンガポールでやり、IBMの『無限大』に載った論文集を書評したのである。 そのあと…

吉野光の『棹歌』(2001)は美術史家・中島純司の自伝小説だが、東大美術史の教授連が出てくる。山根有三は山本、米沢嘉圃は米村、吉川逸治は吉澤など分かりやすい変名なのだが、助手の榊原だけが分からない。この榊原がひときわ奇行甚だしい。ところが辻惟…

修士論文を本にした例

(東大比較文学) 平川祐弘『ルネサンスの詩』内田老鶴圃 1961 のち講談社学術文庫 脇明子『幻想の論理」講談社現代新書 1974 四方田犬彦「空想旅行の修辞学」(七月堂)1996(あとになって) 西成彦『個体化する欲望 ゴンブロヴィッチの導入』朝日出版社、1…