2024-01-01から1ヶ月間の記事一覧

編集者特権と文学賞

文学関係の有力出版社の編集者だった人が、引退とかして本を書くと、お世話になった作家たちが選考委員をする文学賞を貰えるという現象があるのはよく知られている。人物別に一覧にしてみた。 半藤一利(1930-2021)文藝春秋「漱石先生ぞな、もし」新田次郎…

長野隆のこと

長野隆という文学研究者に、会ったことがある。1989年11月の、国文学研究資料館での国際日本文学研究集会で、懇親会の時に妙に陽気に振る舞っていたが、当時39歳くらいだったろう。 それから9年して、私は阪大におり、『ユリイカ』の太宰治特集に、「カチカ…

杜遷と宋万は死んだ

これはトム・ストッパードの「ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ」を下敷きにして「水滸伝」の地味な二人でやってみようとしたが始まってすぐ力尽きたやつ。 杜遷と宋万は死んだ 小谷野敦 杜遷:よう、宋万。宋万:おお、杜遷か、久しぶりだな。杜…

アリエル・ドルフマン「死と乙女」

ふと目についたので図書館から借りてきたのが、昨年8月刊行の岩波文庫だが、これは1991年ころ書かれたチリの作家の戯曲で、世界的成功を収め、日本でも上演されたらしい。ウィキペディアでは「アリエル・ドーフマン」として立項されており、1942年生まれだか…

佐藤実枝「マリヴォー「偽りの打ち明け話」翻訳と試論」

18世紀前半のフランスの代表的喜劇作家マリヴォーの作品の新訳と、詳細な注、そして解説(試論)から成っている。翻訳のほうは、人物のセリフやしぐさに関する細かな注がついており、主人公が真剣に恋しているのか、金目当てなのかが議論になる作品だという。…

橘玲「スピリチュアルズ 「わたし」の謎」

橘玲の遺伝に関する著作が大変面白かったので、これを読んでみたのは、橘がスピリチュアルに関心があるのかと疑問に思って図書館から借りたのだが、これはパーソナリティ心理学の「ビッグファイブ」に対して、橘が考える「ビッグエイト」を解説する心理学の…

「渇水」の原作と吉屋信子「鬼火」

河林満「渇水」の原作を読もうとしたら、杉並図書館では角川文庫は買ってくれなかったので、単行本が14人くらい待ちになっていたから、初出の『文学界』を借りてきて読んだ。選考委員は畑山博、池内紀、青野聡、宮本輝、津島佑子で、うち三人が故人になって…

久世光彦「蕭々館日録」

久世光彦(1935-2006)は、東大卒で、大江健三郎や高畑勲と同年だが、美学美術史卒だからあまり関係ない。TBSに入り、テレビドラマの演出家として「時間ですよ」「寺内貫太郎一家」「ムー」などを手がけたが、「ムー一族」の打ち上げのパーティで、出演して…

小林勇「蝸牛庵訪問記 露伴先生の晩年」

幸田露伴の伝記の決定版は、中公文庫に入っている塩谷賛(しおたにさん)の「幸田露伴」だが、これは筆名で本名を土橋利彦といい、若いころから露伴に師事した人である。だが中途で失明し、この本は録音して書かれている。 小林勇は岩波茂雄の女婿だが、一時…

ディーノ・ブッツァーティ「タタール人の砂漠」

ブッツァーティの「タタール人の砂漠」が岩波文庫で人気があるらしいので読んでみた。私はブッツァーティの名は日本では比較的早く知っていたほうで、1987年に、大学院一年の時、平川祐弘先生のイタリア語の授業に出て、二学期からブッツァーティの作品を読…

音楽には物語がある(61)映画音楽の「巨匠」 「中央公論」1月号

映画音楽の作曲家として知られるエンニオ・モリコーネ(1928-2020)のドキュメンタリー「モリコーネ 映画が恋した音楽家」を観ていたら、どうも居心地が良くなかった。色々な人がモリコーネについてコメントするのだが、最大級の絶賛の言葉を次々と並べられ…

映画「渇水」と河林満

「渇水」は、河林満(1950-2008)の純文学短編で、芥川賞候補になり、同名の単行本も1990年に出た。その年は私が最初の本を出した年なので、父親が舞い上がって、別に関係ないのにこの本を買ってきたが、私は読まず、その後売ってしまって今に至っている。河…