2025-01-01から1年間の記事一覧

齋藤塔子『傷の声』アマゾンに書けないレビュー

人に教えられて、齋藤塔子『傷の声 絡まった糸をほどこうとした人の物語』(シリーズケアをひらく、医学書院、2024年11月)を読んだが、まったく頭が混乱してしまって、点数がつけられないのでアマゾンに投稿できない。 著者は2024年5月に、おそらく自殺して…

東浩紀『訂正可能性の哲学』アマゾンレビュー

2点 東浩紀という人の本は、あまり読まない。これも二冊目だろうか。結構変な書物で、前半はヴィトゲンシュタインやクリプキ、アーレントなど哲学者の論をあれこれ引用して、「家族」と「訂正」について語っている。あれ?と思ったのは79pの「そして人は大…

新刊です「ルソーとその妻テレーズ」あとがきを公開

「ルソーとその妻テレーズ」あとがき 二〇一七年七月、私は三十五年間、一日も中断することなく喫ってきたタバコをやめた。そのあとの壮絶な苦しみは「幻肢痛」(『蛍日和』幻戯書房)に書いてあるが、そこにも少し書いたように、ちょうど同じころから、もの…

自己嫌悪を感じない

前に何度も書いたが、私は自己嫌悪というものを感じない人間である。記憶しているのは高校三年の時、母の田舎の八歳くらいの男児が事故死して、その葬儀に行った時、私は葬儀中にだらだらと涙を流したが、すぐあとになって、それが演技だったことに気づいて…

五味康祐のクラシック随筆

五味康祐(1921-80)という作家は、私が高校三年になった日に59歳で死んでいる。だからそのころはまだ生きていて「こうすけ」と呼ばれており、のち私は「やすすけ」が正しいのだと知った。五味は人相見もやっていて、当時よくテレビに出ており、帰宅すると…

「花嫁は十五才」と「ハノーバー・ストリート」

和泉雅子主演の「花嫁は十五才」(1964)という映画を観たら面白かった。これの冒頭近くで、主人公のむく太(山内賢)とひろ子(和泉)が知り合うシーンは、バスの中で座ったひろ子が級友とにぎやかに談笑しているのをむく太が立って遠くから見ている。級友…

川端康成と真下五一

『日本近代文学館』の月報『日本近代文学館』11月15日の号に「寄贈に寄せて<真下五一について>」という三上聡太氏(同志社大学助教)の研究ノートが載っている。このうち、1961年から62年にかけて「朝日新聞」に『古都』を連載した川端から、京都文壇の重鎮…

縄田一男『武蔵』アマゾンレビュー

3点 本書は2002年9月に書き下ろし文藝評論として刊行されている。企画は二年前からのようだが、2003年にはNHK大河ドラマで市川新之助主演の「武蔵」をやっているから、それへの当て込みもあったろうし、当時人気のあった井上雅彦の「バガボンド」もこの企画…

坪内祐三『変死するアメリカ作家たち』アマゾンレビュー

本書は、2007年に白水社から出ている。だが、書き始めたのは1993年だという。90年に32歳で「東京人」を辞めた坪内は、知り合いだった西堂行人という演劇評論家で、未来社社長の西谷能英の弟だった人から、『未来』に何か書かないかと誘われ、もともとアメリ…

「大谷崎」の解説

私は谷崎潤一郎が「大谷崎」と呼ばれるのは、三島由紀夫や小林秀雄が勘違いした「偉大だから」「おおたにざき」なのではなく、弟の精二も作家だから「大谷崎(だいたにざき)」「小谷崎(しょうたにざき)」なのだと言ってきたが、疑念を差し挟む人がいるの…

井上一馬『『若草物語』への旅』アマゾンレビュー

若草物語への旅 星4つ - 評価者: 小谷野敦、2025年11月19日 私は「赤毛のアン」が大好きなのに、「若草物語」はどうしても好きになれない。それで本書を読んでみた。これは書き下ろしの歴史文学紀行だが、第一章の一部は『別冊文藝春秋』に載ったということ…

金原ひとみ「ミーツ・ザ・ワールド」アマゾンレビュー

柴田錬三郎賞受賞作なので、娯楽小説として見ると、真ん中へんのストーリー展開はうまいし、前半は文章もよく統御されているが、ライが消えてからは話の落としどころが分からなくなって迷走している。特に母親に対する態度や考え方は、40年前の少女マンガが…

渡辺淳一と亀井勝一郎

渡辺淳一の初期短編「訪れ」(『文藝』1967年12月号)を読んだ。これは直木賞候補になっており、文庫『死化粧』に入っている。ちょうど一年前に死んだ亀井勝一郎が「K氏」として登場する。渡辺が同人雑誌賞をとって東京の授賞式に行った時に「K氏」と会うが…

「バニー・レイクは行方不明」と七瀬シリーズ

1965年の「バニー・レイクは行方不明」という英国映画がある。私は一度観たのだが、どういうわけかこの題名が覚えられず、「ペニー・レインは行方不明」で検索して、あれ、ないな?と思っていた。2005年のジョディ・フォスター主演の「フライトプラン」の元…

吉村昭の『破船』と「日本残酷物語」

吉村昭は、純文学のほかに多くの歴史・実録小説を書き、もっぱらそちらで人気のある作家だが、中に『破船』(1982)というのがある。中編小説程度の長さだが、タイトルは久米正雄が、松岡譲と恋の鞘当てをしたのを書いてベストセラーになった『破船』と同じ…

楊双子「台湾漫遊鉄道のふたり」アマゾンレビュー(非掲載)

ポリコレなラノベ 2点 昭和13年に台湾を訪れた日本人作家の青山千鶴子と、台湾人通訳の王千鶴の「食べ物」をめぐる「百合」小説で、味わいはほぼラノベである。最後のほうで、台湾人による日本支配への批判が立ちあがるが、これのために全米図書賞を受けたの…

川村二郎『限界の文学』(1969)を読む

近ごろ、文藝評論は滅びるとか、小説家が文藝評論を書き出したとか言われているし、昔の文藝評論はどんなだったのかと、川村二郎(1928-2008)の『限界の文学』という、講談社が設定した亀井勝一郎の第一回受賞作に目を通してみた。この亀井勝一郎賞という…

アレクサンドリア四重奏

ロレンス・ダレルの『アレクサンドリア四重奏』は、「ジュスティーヌ」「バルタザール」「マウントオリーブ」「クレア」の四部作だが、私はその全部を訳した高松雄一に英文科で教わっておりながら、「ジュスティーヌ」一編だけ読んで退屈だったので以後読ま…

張競『厨川白村』(ミネルヴァ日本評伝選)

1970年代の本だったと思うが、「中国ではまだ厨川白村は読まれているのに、日本ではまったく忘れられている」という文章を読んだのが、厨川白村という名を知ったはじめであった。 厨川白村は、1880年生まれの英文学者で、京都帝大英文科で上田敏が死んだあと…

大岡昇平『歌と死と空』アマゾンレビュー

『花影』の副産物 * 1960年から「報知新聞」に連載され、62年に光文社から出た長編推理小説。ちょうど「純文学論争」をやっていたころ、自分でも推理小説を書いていたわけだ。犯人当て 推理小説は好きじゃないのだが、面白く読めるのは文体が推理作家のそれ…

吉村昭の『月下美人』と賀沢昇

吉村昭の「月下美人」は、同題の短篇集(1983)に入った長めの短編で、80年の『群像』に発表されたものだ。これは『逃亡』(1974)のモデルとなった賀沢昇(1925-?)という元逃亡兵と吉村とのかかわりを描いたもので、小説についての私小説である。菊池寛…

花袋、柳田、柄谷行人

田山花袋の「妻」の中に、柳田国男をモデルとする青年が、もう詩はやめた、農政学の本を読むと言い出す場面が、橋川文三の『柳田国男』に引かれている。すが秀実は『一歩前進二歩後退』の坪内祐三追悼文で、この場面はそれ以後、花袋の脳天気さと柳田の聡明…

宮城谷昌光「随想春夏秋冬」アマゾンレビュー

星2つ - 評価者: 小谷野敦、2025年10月3日 著者は早稲田の英文科卒だが、英文科でシェイクスピアを教えていなかったとあって驚いた。かつて坪内逍遙が教えていた早稲田の英文科で。著者の指導教員は作家も兼ねた小沼丹だったというが、おそらく大井邦雄とい…

「刑事コロンボ」と偽の記憶(ではなかった)

私は「刑事コロンボ」が大好きなのでDVDボックスも持っているのだが、そこで字幕版を観ていて、誰か女性が「インスペクター」と呼びかけてコロンボが「いえリュテナンです」と答える場面があり、吹き替えでは巧みに別の会話になっているのを発見したことがあ…

菅原真弓『月岡芳年伝』アマゾンレビュー

四点 芸術選奨新人賞受賞作。著者の単著としては二冊目で、年齢は正確には分からないが50歳を超えているだろう。私は芳年の武者絵が好きなので精密に読んで面白かった。 ただ死因を精神病としているが、精神病は死因にならないので、そこは正確には不明 とす…

西村京太郎と「21世紀の日本」

西村京太郎は、前半生は賞はとるのに売れないという人生を送った人で、『天使の傷痕』という名作で乱歩賞をとったあと、生活のために総理府が主催した「21世紀の日本」という懸賞に長編小説『太陽と砂』を送って500万円という当時としては破格の賞金をかちえ…

春日太一『鬼の筆 ・・・橋本忍の栄光と挫折』アマゾンレビュー

12年かけて、晩年の橋本に取材した労作だけあって充実している。橋本が「三益愛子 の母もののように当てたい」という俗な意図から「真昼の暗黒」などを書いたことは、言われれば確かにそう感じる。私にとっては「幻の湖」のような怪作がなぜできたの かが関…

読んだ漫画一覧

私は中学生の時まで将来は漫画家になるつもりで鉛筆描きの漫画をたくさん描いていたのだが、どういうわけか私が漫画を読まないと思っている人がいて、それはいくらなんでも私の本を読んでないんだろうと思うが、いい機会なのでこれまで読んだ漫画を列挙して…

杉本苑子『随筆集霧の窓』(1992)アマゾンレビュー

星3つ - 評価者: 小谷野敦、2025年8月20日杉本苑子の随筆集を読むのは初めてだ。文化勲章受章の歴史作家としては何だかそのへんのおばさんみたいな筆致が眼だつなあと思って読んでいたらMOA美術館での失態がモーパッサンの短編にからめて語られていて、うわ…

杉本苑子の「冤罪」

杉本苑子の随筆集『霧の窓』(光風社書店、1992)に、1982年のエッセイが載っている。これはモーパッサンの「絲くず」という、絲くずを拾っただけなのに手帖を拾ったと誤認されて、冤罪を噂されて死んでいく男を描いた短編の話から始まる。というのは、近ご…