2025-10-01から1ヶ月間の記事一覧

張競『厨川白村』(ミネルヴァ日本評伝選)

1970年代の本だったと思うが、「中国ではまだ厨川白村は読まれているのに、日本ではまったく忘れられている」という文章を読んだのが、厨川白村という名を知ったはじめであった。 厨川白村は、1880年生まれの英文学者で、京都帝大英文科で上田敏が死んだあと…

大岡昇平『歌と死と空』アマゾンレビュー

『花影』の副産物 * 1960年から「報知新聞」に連載され、62年に光文社から出た長編推理小説。ちょうど「純文学論争」をやっていたころ、自分でも推理小説を書いていたわけだ。犯人当て 推理小説は好きじゃないのだが、面白く読めるのは文体が推理作家のそれ…

吉村昭の『月下美人』と賀沢昇

吉村昭の「月下美人」は、同題の短篇集(1983)に入った長めの短編で、80年の『群像』に発表されたものだ。これは『逃亡』(1974)のモデルとなった賀沢昇(1925-?)という元逃亡兵と吉村とのかかわりを描いたもので、小説についての私小説である。菊池寛…

花袋、柳田、柄谷行人

田山花袋の「妻」の中に、柳田国男をモデルとする青年が、もう詩はやめた、農政学の本を読むと言い出す場面が、橋川文三の『柳田国男』に引かれている。すが秀実は『一歩前進二歩後退』の坪内祐三追悼文で、この場面はそれ以後、花袋の脳天気さと柳田の聡明…

宮城谷昌光「随想春夏秋冬」アマゾンレビュー

星2つ - 評価者: 小谷野敦、2025年10月3日 著者は早稲田の英文科卒だが、英文科でシェイクスピアを教えていなかったとあって驚いた。かつて坪内逍遙が教えていた早稲田の英文科で。著者の指導教員は作家も兼ねた小沼丹だったというが、おそらく大井邦雄とい…

「刑事コロンボ」と偽の記憶(ではなかった)

私は「刑事コロンボ」が大好きなのでDVDボックスも持っているのだが、そこで字幕版を観ていて、誰か女性が「インスペクター」と呼びかけてコロンボが「いえリュテナンです」と答える場面があり、吹き替えでは巧みに別の会話になっているのを発見したことがあ…