2020-09-01から1ヶ月間の記事一覧

平川祐弘「アーサー・ウェイリー」アマゾンレビュー

小谷野敦 5つ星のうち3.0 サイデンステッカー批判の誤り 2020年8月19日に日本でレビュー済み ウェイリーを礼讃し、サイデンステッカーを批判するという底流があるが、その部分は誤りである。平川は、光源氏が空蝉とセックスしたのを、空蝉が「ナイトメア」と…

ナイジェル・クロス「大英帝国の三文作家たち」(松村昌家・内田訳)アマゾンレビュー

小谷野敦 5つ星のうち5.0 知られざる名著か 2020年8月27日に日本でレビュー済み 原題はThe Common Writer:Life in 19th Century Grub Street、Nigel Cross(1953- )1985 である。19世紀の英国における、成功しなかった作家たちを、王立の作家支援基金の話を中…

ザミャーチン「われら」アマゾンレビュー

小谷野敦 5つ星のうち2.0 読者を変えない小説 2020年8月30日に日本でレビュー済み 岩波文庫で昔読んだが、アクション小説のようでそれでいてつまらなかった。レーニンにせよスターリンにせよソ連がいい国家だったと思っている人などほとんど今ではいないだろ…

さようならポパー。

ラカトシュ・イムレ「方法の擁護」アマゾンレビュー 小谷野敦 5つ星のうち4.0 さらばポパー 2020年9月1日に日本でレビュー済み ハンガリー出身なので、正しくはラカトシュ・イムレ(1922-74)。没後編纂された論文集の第一巻の翻訳なので、まとまった著作で…

岡ノ谷一夫「「つながり」の進化生物学」アマゾンレビュー

小谷野敦 5つ星のうち3.0 ちょっとモヤる 2020年9月17日に日本でレビュー済み 高校生への講義形式。人間の赤ちゃんだけが泣くのは長い毛がないため母親がつかめないから、など知ることができる。だがピダハンのエヴェレットを認めちゃっているところは気にな…

高田衛『八犬伝の世界』アマゾンレビュー

小谷野敦 5つ星のうち2.0 普賢菩薩説は認めない 2020年9月18日に日本でレビュー済み 今年90歳になる著者の作。なお高田の専門は上田秋成である。本書は「八犬伝」が書かれた背景、作品紹介としてはいいが、高田独自の説である八犬士を普賢菩薩の八大童子とす…

「四谷怪談」と呉智英

鶴谷南北の「東海道四谷怪談」というのは、私は別に好きな芝居ではないが人気がある。しかしこれ、全共闘世代の左翼に人気があったようで、左翼だった広末保も、岩波新書で「四谷怪談ー悪意と笑い」を書いている。 初演の際に、「忠臣蔵」の四段目までを演じ…

池内正幸「ひとの言葉の起源と進化」、橋本陽介「「文」とは何か」アマゾンレビュー

「ひとの言葉の起源と進化」 小谷野敦 5つ星のうち5.0 名著 2020年9月11日に日本でレビュー済み Amazonで購入 生成文法の入門書だが、今まで読んだ中で最高の著作。ですます調で、それまで一心に研究してきた人が練り上げられた知識と思考で書いているからた…

プロの手が入る

「ぼくらの七日間戦争」という映画を観た。宗田理原作(今も存命、92歳)の角川映画で、私の若いころはやって、中学生がよく角川文庫の宗田本を読んでいた。 中学生男子八人が学校への不満から工場に立てこもる話で、よくある「反・学校」ものの定型を出てい…

「禁煙ファシズムと戦う会」退会について

私が「会長」ということになっていた「禁煙ファシズムと戦う会」は、もともと2004年11月にミクシィに開設したコミュが実態であり、オフ会もしたことがあるがちょっと変な集まりであった。今般、解散か管理人変更か諮問したところ管理人を変わってくれる人が…

パイプクラブとの関係

私は以前、日本パイプクラブのウェブサイトに不定期で文章を書いていたことがあったが、クラブとの関係が悪化してなくなった。そのせいか、私がパイプ喫煙者が嫌いだと思い込んでいる人がいるらしいので、経緯を書いておく。 もともと、パイプクラブの人たち…

沢山美果子「性からよむ江戸時代」アマゾンレビュー

小谷野敦 5つ星のうち4.0 さらば江戸幻想 2020年9月23日に日本でレビュー済み 21年前、私は『江戸幻想批判』を出版したが、当時は、近世において性はおおらかだった、聖なるものだったという言説が流行しており、従軍慰安婦にからめて日本を批判する著作はあ…

辻田真佐憲「ふしぎな君が代」アマゾンレビュー

小谷野敦 5つ星のうち2.0 あえて右翼と呼ばせていただく 2020年9月24日に日本でレビュー済み 賞賛論が多いのであえて書く。著者は「軍歌は好きだが右翼ではない」著者として登場した。だが本書を読んで、やっぱり右翼だったんだなと私は思った。君が代を、天…

上野千鶴子VS工藤美代子

98年ころか、日本軍による朝鮮人従軍慰安婦の強制連行が問題になっていた時、軍の命令文書がないという指摘があり、上野千鶴子は『論座』で大月隆寛を批判して、文書史料で分からないところを口承・口碑で埋めていくのが民俗学ではないか、と書いた。当時私…

音楽には物語がある(15)国民歌手・中島みゆき(1)中央公論2020年1月

私が初めて中島みゆきの歌を聴いたのは、中学生の時、埼玉県越谷市の、かつての日光街道沿いにあった商店街で、すでに別の場所にイトーヨーカ堂ができたためその商店街はすたれつつあったのだが、中でもひときわ古めかしくて、今ではなくなってしまったフタ…

キマっている歌・補遺

jun-jun1965.hatenablog.com 以上の記事について、作曲家・ピアニストの野田憲太郎氏より以下のとおりご教示いただきました。 >西洋音楽の和声学の術語で説明すると、ドッペルドミナントが出てきて、ドミナントが出てきて、トニックで終わるというテクニック…

書評 日比嘉高『プライヴァシーの誕生』             

(以下は「週刊読書人」のために書いた書評だが、褒めていないというので没になったものである) 三、四年前、川端康成が、若いころの失恋の相手「ちよ」に宛てた手紙が発見され公開された。その際ネット上で、こんな昔の恋文を公開されるなんてかわいそう、…

音楽には物語がある(13)キマっている歌 中央公論2019年12月

石原慎太郎が作詞し、山本直純が曲をつけた「さあ太陽を呼んでこい」という歌があり、少年合唱曲として「みんなのうた」で一九六三年に放送された。「太陽の季節」の石原だから、朝がた、太陽を呼び迎える歌になったのだろう。人生の比喩になっているとする…

「日本的論理」などというものはない

橋本陽介『「文」とは何か』に、西洋人はAかBかという論理(排中律)で考えるが、日本(東洋?)には「AもBも」という別の論理があると書いてある。そういうことは過去いろいろ言われたのだが、これもインチキ日本文化論である。そもそもそんなことを言…

 豊田正子の戦中と戦後   諸君! 2007年4月

私が文学書の類を読むようになった高校時代、岩波文庫には、存命の作家はほとんど入っていないように感じていた。だが調べてみると、何も同文庫が最初から、存命の作家はなるべく入れないという方針をとっていたわけではない。創刊してしばらくは、緑帯の日…

音楽には物語がある(12)二つのルンバ 中央公論2019年11月

「みんなのうた」に、私が高校生のころ放送された「メゲメゲルンバ」というのがある(うた詩織、作詞藤田詩織、作曲古田喜昭)。昔ペルシャに、空飛ぶじゅうたんに乗って事件を解決するスーパーヒーローがいたが、ケーキが好きで食べすぎたため太ってじゅう…

千葉雅也の論

ちくま新書『世界哲学史8』で千葉雅也君が、ポモ批判に全部反論していると言っていたのであまり信用しないながら図書館で取り寄せて見てみたがまあ思ったとおり普通のポモ解説でしかなかった。いや別に失望はしていない。 千葉君も、「近代」が終わっている…

音楽には物語がある(10)女はバカがいい? 中央公論2019年12月

歌謡曲には恋愛の歌が多いが、かつてそこで歌われていた女性観には、今では通用しないだろうな、というものも少なくない。伊藤咲子の「ひまわり娘」(阿久悠作詞、一九七四)は、女がひまわりで男が太陽だし、石川ひとみの「くるみ割り人形」(三浦徳子作詞…

母の通信教育

私の中学生から高校生の時分、母はNHK学園高校の通信教育を受けていた。田舎の中学校を出てすぐ銀行に勤めたのだ。卒業して東洋大学の通信を受け始めたが、こちらは卒業できなかったようだ。 高校生の母に届く教材のうち「国語」のそれは、中学生の私も読…

『内閣調査室秘録』と坪内祐三

昨年、文春新書から『内閣調査室秘録』という本が出た。佐藤栄作内閣の後期に設けられたもので、保守派の学者・評論家を呼んで話を聞いた経緯を、志水民郎という人が記録しておいたのを、登場人物別に編纂したもので、江藤淳、山崎正和、中嶋嶺雄、永井陽之…

新刊(翻訳)です

訂正: 131ページ (香を)炊いて→焚いて 209ページ 首肯→趣向

音楽には物語がある(8)流浪の民 中央公論2019年8月

小学校六年生の時、どうも私はけっこう幸せだったらしい。三年生で埼玉県へ引っ越してきて、二年ほどはなじめなかったのか、友達も一人しかいなかったが、五年生になってから土地に慣れたのか、友達も増えた。 そんな時、音楽の時間に聴いたのが、シューマン…

音楽には物語がある(7)日生のおばちゃん 中央公論2019年7月

「日生のおばちゃん、自転車で」で知られる、日本生命のCMがあった。一九八六年まで流れていたらしいが、私は一九七〇年代にこれをテレビで聴いた時、何かの替え歌かな、と思った。まずメロディーをよそで聴いたことがあったし、歌詞に「日生のおばちゃん…

「唐傘」と「唐草」

「あまがさ」や「ひがさ」は濁るが、「からかさ」は濁らない。後半部に濁音があると濁らないがからかさは例外だという。 しかし「からくさ」も例外だろう。すると「から」が問題なのかと思ったが「からぼり」は濁る。最後が「さ」ということで考えたが、「ふ…