複雑な事情

小学校教育に関する書籍をアマゾンで見たらこんな「正誤表」がついていた。複雑な事情を感じさせる。 [正誤表]2020/07/08本書においては、以下に不適切な個所がございました。お詫びして訂正いたします。「おわりに」において、「『仕掛け学』という言葉の使…

長堂英吉「黄色軍艦」を読む

続けて長堂英吉「黄色軍艦」を読む。1998年『新潮』に一挙掲載された250枚くらいの中編か。平野啓一郎の「日蝕」と同じ年だから編集長は前田速夫だろう。 明治20年代の沖縄が舞台。明治の琉球処分で、独立して薩摩と清国に両属していた琉球は日本領になり、…

長堂英吉(ながどうえいきち)「ランタナの花の咲く頃に」感想

沖縄の作家・長堂英吉が2020年に87歳で死んでいたことに気づいたので、その出世作『ランタナの花の咲く頃に』(新潮社)を読んでみた。これは1990年の新潮新人賞受賞作で、当時長堂は58歳である。のち『黄色(ちいる)軍艦』で、66歳にして芸術選奨新人賞を…

鈴木貞美と大衆文学

前に触れた「石川淳の世界」は、シンポジウムをもとにしたものだが、最後のほうに鈴木貞美が出てきて、例によって、純文学と大衆文学などという区別は不要だと気炎を上げている。私はこの件で十年くらい前に鈴木と論争したことがあるのだが、鈴木はどうも石…

山田詠美の「選評」をめぐって

第169回芥川賞の選評を見ていて、山田詠美・選考委員の「選評」に、気になる一節を見つけた。「このところ何度となく、「芥川賞選考会は、他のジャンルから出て来た候補者には授賞しないと決めたようだ」という当て推量めいた文言を目にしたのだが…いいえ、…

「最後の文人石川淳の世界」(集英社新書)のざっとした感想

「最後の文人石川淳の世界」(集英社新書)を読んでいるが大概何を言っているか分からない。冒頭で田中優子が、戦後石川は、天皇制を廃して大統領制にする千載一遇のチャンスだったと言ったが今ではほとんどの人が考えないと言っているが田中は考えないのか…

音楽には物語がある(56)坂田晃一の音楽 「中央公論」8月号

春の芸術選奨で、朝の連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」のシナリオを書いた藤本有紀が文部科学大臣賞をとったので、観てみた。私も以前は「ひらり」とか「純と愛」とか「朝ドラ」を続けて観ることはあったのだが、今は毎日15分小刻みに観るのが面倒で…

吉村忠典(ただすけ)「古代ローマ帝国」(岩波新書)

高田康成が名著だと書いていたので、吉村忠典(横浜国立大名誉教授)の「古代ローマ帝国」を借りてきて読み始めたのだが、いきなり「帝国」といっても皇帝がいるとは限らないと書いて、アメリカやソ連を「帝国主義」と言うとか書いてあったのでちょっと頭を…

秋野暢子と「みなしごハッチ」

これはどこかに書いたような気がする。秋野暢子という女優がいる。90年代だったか2000年代だったか、なつかしのアニメを振り返るというテレビ番組を見ていたら、「みなしごハッチ」が出て来た。誰だか忘れたが秋野より若い女優が「ゆっけーゆけーハッチー」…

塩野七生「わが友マキアヴェッリ」を読んだ

ジョン・ポーコックの『マキャヴェリアン・モーメント』が難解で歯が立たなかったので代わりに、抽象的なことは苦手だという塩野七生の『わが友マキアヴェッリ』を読んだ。これは、本のどこを見ても書いてないのだが、『中央公論』に1985年1月から86年12月ま…

「中野好夫論」を途中まで読んで

岡村俊明「中野好夫論」(法政大学出版局)を途中まで読んでやめた。著者は1938年生まれの英文学者で、鳥取大学名誉教授である。 「伝」ではないのかと思ったら、実際「伝」も少しはあるものの、中野の著書や翻訳の解題みたいなものが続くのでやめた。 中野…

馬場あき子と小笠原賢二

2000年ころだったか、私は武蔵野女子大学(現武蔵野大学)の日本文学の専任の公募に出して面接に行ったら、普通そういうことはしてはいけないのに面接に来た人をみな同じ部屋に入れていた。私は隅のテーブルで喫煙していたら、向かいで喫煙していたのが文藝…

高田康成「キケロ」(岩波新書)は名著

高田康成は東大駒場の英語の先生で、専門はチョーサーなのだが、シェイクスピアにも通暁しており、ラテン文学を中心とする碩学で、私が行く前に阪大の言語文化部におられた。航空学校からICUをへて東大大学院へ来た変わり種だが、今では学士院会員である。 …

映画「ラーゲリより愛を込めて」の感想

角川春樹の姉の辺見じゅんのノンフィクション「収容所から届いた遺書」を原作として瀬々敬久が監督したもの。ラーゲリでの11年の抑留の間人々を文芸活動などで励まし続けたインテリ山本幡夫が、ガンのため異国で死んでしまい、家族に宛てて遺書を書くが、ソ…

佐藤眞(元集英社インターナショナル)の正体

かつて私の本の刊行を卑劣なやり方で妨害し、裁判においてもその理由を遂に明らかにしなかったのが、集英社インターナショナルの佐藤眞である。1960年福岡県生まれ、東大文学部国語学科卒、祥伝社、クレスト社をへて集英社インターナショナル、2020年に定年…

映画「検察側の罪人」はいい映画だった。

2018年の日本映画「検察側の罪人」は、雫井脩介原作、原田眞人監督、木村拓哉・二宮和也・吉高由里子主演だが、アマゾンプライムで三点以下と評価が低いから、どうかなと思って観てみたら、検察の裏面を描いた秀作だった。勧善懲悪ではないし、スカっともし…

シリーズ第一冊

1988年に岩波新書の新赤版が発足した時、その第一冊として出されたのが大江健三郎の『新しい文学のために』であった。第一冊といっても一度に数冊出るわけで、付せられた番号が一番ということである。1978年の「岩波現代選書」創刊でも、第一は大江の「小説…

「ルネッサンス巷談集」と「日暮硯」

岩波文庫の赤帯に、フランコ・サケッティ「ルネッサンス巷談集」というのが入っている。14世紀イタリア小咄集で、「三百小咄集」というのが原題だが、300全部は残っていないらしく、うち75編を杉浦明平が訳している。読み始めてすぐ、「ああこれはつまらない…

映画「乙女の祈り」(ケイト・ウィンスレット)の感想

1954年に実際に起こった二人の少女による片方の少女の母親殺害事件をもとにした、ケイト・ウィンスレットのデビュー作映画で、監督は「ロード・オブ・ザ・リング」のピーター・ジャクソン。舞台はニュージーランドで、ややヘンテコで不穏な雰囲気だが、次第…

岡倉登志「ボーア戦争」(山川出版社)を読んだ

岡倉登志(たかし、1945年11月21日ー )は、岡倉天心の曽孫だというが、天心の子孫は多いので、父親が誰かはまだ分からない。ボーア戦争についてまとまった本を読んだことがなかったので読んでみた。岡倉はこれより前に同題のやや薄い本を教育社新書で出して…

中島義道とエルヴィン・ベルツ

1999年ころのことだが、哲学者の中島義道は、日本における公共放送を騒音だとして弾劾することで知られていた。当時中島は、こんなにうるさいのは日本だけだと言っており、他の日本人はそれが気にならないらしいから、自分はあたかも日本に滞在している外国…

音楽には物語がある(55)「空の神兵」の周辺 「中央公論」七月号

1975年3月といえば、私は小学校を卒業して中学に入る直前だったが、調べるとその頃の夜8時から、「落下傘の青春」という単発ドラマがNHKで放送されていた(矢代静一脚本、財津一郎、山本學、仁科明子主演)。両親が観ていたのを、私は居間で雑誌でも読みなが…

平岩弓枝「花影の花 大石内蔵助の妻」感想

平岩弓枝が死去したので、吉川英治文学賞受賞のこれを読んでみた。この賞は、大衆文学系の重鎮が与えられる賞で、必ずしも作品の質を保証しないが、これは予想を裏切っていい小説だった。話は大石内蔵助らが切腹したあとの妻石束りくと不肖の息子・大三郎を…

湟野(ほりの)正満・ゆり子夫妻について

以前、岩波文庫の翻訳者を調べていた時、マルモンテル『インカ帝国の滅亡』の訳者・ 湟野(ほりの)ゆり子の経歴がまったくわからなかった。ところが中川久定『甦るルソー』を読んでいたら、あとがきの協力者に、湟野正満・ゆり子夫妻とあったので、調べたと…

「グレン・グールド 天才ピアニストの愛と孤独」感想

グレン・グールドが50歳の誕生日に死んだのは私が大学一年の時で、私がグールドを聴いたのはその死後だった。カナダへ行った時、自殺だと聞いたのだが、どうやらそうではなく、晩年は病気恐怖とパラノイアのため複数の病院で多くの薬をもらいオーヴァードーズ…

谷川建司の歌舞伎論

谷川建司という私と同年の映画研究者がいて、早稲田の客員教授などをしている。この人が「高麗屋三兄弟と映画」などを出して以来、歌舞伎に口を出すようになっているが、本来の専門ではないせいか、細かい間違いが多い。「レビュー大全」389pにレビューがあ…

新刊です

「蛍日和 小谷野敦小説集」幻戯書房 収録作「蛍日和」「幻肢痛」(以上「文學界」)「幕見席」「村上春樹になりたい」 訂正:「幕見席」で春日部高校を共学と誤認して女子のヒロインを入学させてしまいました。決してトランス男性になったわけではありません…

映画「パーフェクト・ストレンジャー」感想

これは2007年の娯楽映画で、ジャーナリストのハル・ベリーが少女殺人容疑者を突き止めるためブルース・ウィリスの会社社長に色仕掛けで迫るという、あまり子供には見せられないタイプの映画で、前半はかなりケバケバしく、趣味のいい人間が観る映画でもない…

映画「酒とバラの日々」の感想

ジャック・レモン主演、ブレイク・エドワーズ監督の白黒映画「酒とバラの日々」(1963)は、アメリカ映画で私が観た三つ目の「アル中映画」だ。「失われた週末」(1945)も「愛しのシバよ帰れ」も、アル中で断酒中の男が出てきて、途中から酒に手を出すとい…

今井むつみ・秋田喜美「言語の本質」の感想

発売と同時にアマゾンで13位とかものすごい売れ方をしたので、なんだなんだと思って取り寄せてようやく届いたので読んでみた。年長の今井は発達心理学者で、秋田は言語学者、秋田は私がいた阪大言語文化研究科の講師をしていたことがあり、今は名古屋大准教…