1988年に岩波新書の新赤版が発足した時、その第一冊として出されたのが大江健三郎の『新しい文学のために』であった。第一冊といっても一度に数冊出るわけで、付せられた番号が一番ということである。1978年の「岩波現代選書」創刊でも、第一は大江の「小説の方法」だったし、90年の同時代ライブラリーでも大江の「M/Tと森のフシギの物語」だった。
ほかに、シリーズ第一冊となったのは、だいたい以下のようである。
1927年 改造社・日本現代文学全集「樋口一葉・北村透谷篇」
春陽堂・明治大正文学全集「尾崎紅葉篇」永井荷風、
1947年新潮文庫 川端「雪国」
1954年岩波文庫白 ルソー「社会契約論」
1962年中公新書 桑原武夫編「日本の名著」「アーロン収容所」
1974年 文春文庫 「青年は荒野を目ざす」「されどわれらが日々ー」「おろしや国酔夢譚」「最後の将軍」ほか
1976年講談社学術文庫 久松潜一「万葉秀歌」今西錦司「進化とは何か」都留重人「経済学入門」鶴見俊輔「アメリカ哲学」柳田国男「明治大正史世相篇」桑原武夫「第二藝術」梅原猛「日本文化論」吉川幸次郎「中国文学入門」田中美知太郎「哲学入門」三浦つとむ「日本語はどういう言語か」小泉信三「共産主義批判の常識」
1978年岩波現代選書 大江「小説の方法」
1988年 岩波新書新赤版 大江「新しい文学のために」
講談社文芸文庫 「群棲」「忠臣蔵とは何か」「樹影」「スミヤキストQの冒険」「抱擁家族」「アカシヤの大連」「熊野集」「錨のない船」
1990年岩波・同時代ライブラリー 大江「M/Tと森のフシギの物語」
1993年平凡社ライブラリー 網野善彦「異形の王権」ほか
1994年ちくま新書 竹田青嗣「ニーチェ入門」ほか
なるほどと納得されるラインナップだが、実は私にも一冊、シリーズ第一冊がある。『間宮林蔵<隠密>説の虚実』は、教育出版の「江戸・東京ライブラリー」の第一冊なのである。