音楽には物語がある(56)坂田晃一の音楽 「中央公論」8月号

 春の芸術選奨で、朝の連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」のシナリオを書いた藤本有紀文部科学大臣賞をとったので、観てみた。私も以前は「ひらり」とか「純と愛」とか「朝ドラ」を続けて観ることはあったのだが、今は毎日15分小刻みに観るのが面倒で観ていない。最初のほうはディスクで観たが、そのあとアマゾンプライムNHKオンデマンドでぶっ続けに一週間くらいで全部観た。日本でラジオ放送が始まったのが1925年で、それから百年間の物語というので、1925年に岡山の和菓子屋に生まれた上白石萌音を最初の主人公とし、その娘を深津絵里が演じたが、当時48歳になっていた深津が、18歳の娘を演じていたのにはたまげた。その娘が川栄李奈だったが、大阪と京都を舞台として、和菓子、ラジオ英語講座、ジャズ、時代劇の四題噺みたいに破天荒な物語展開で、藤本という人は才人だなと思った。

 題名は、敗戦後すぐラジオで放送された、平川唯一が司会する「カムカム英語」を、上白石が聴き、孫の女子が子供のころ、NHKの「英語会話」を聴くところから来ているのだが、これは1975年ころの話で、そのころ中学1年だった私はNHKの「基礎英語」を聴いていたから、小学生がなんでいきなり上級者向けの「英語会話」を聴くのかとそこは不満だった。

 大阪編で登場した、深津絵里と結婚するオダギリジョーはジャズのアマチュア・トランぺッターだが、その友人でキザな男を早乙女太一が演じていて、彼が吹く曲「ヘイ!レッド・ホット」(金子隆博)が気に入ったので、サントラ盤を買ってしまった。

 全体にNHKの宣伝めいたところのある番組で、オダギリジョーは「朝ドラ」を毎日観ていて、「おしん」(83年)の時には、その第1回を観て、人々がおしんの話をするが肝心のおしん乙羽信子)は最後にちらっとしか出てこない、これは名作になる予感がするなあ、と言っていた。私はこれを聞いて、自分が「おしん」をちゃんと観たことがないのに気付き、オンデマンドで4回くらいまで観た。

 「おしん」のテーマ音楽は、坂田晃一(1942- )である。東京芸大のチェロ専攻を中退したあと、歌謡曲などの作曲家になったが、橋田寿賀子脚本の大河ドラマはみな坂田が手がけている。「おんな太閤記」(1981)「いのち」(1986)「春日局(1989)である。私は坂田の歌謡曲の作曲は特に評価するものはないが、この「いのち」の主題音楽は名曲だと思っている。といっても、大河ドラマで唯一のフィクションもので現代ものの、三田佳子が演じる女医の生涯を描いたこれを、私は全然観ていないので、大河ドラマの主題音楽を集めたCDやDVD(私はそういうのを三種類くらい持っている)で聴いているうちにいい曲だと思うようになったのである。クラシック風で、ピアノとヴァイオリンを高く清らかに響かせて、多分音楽関係者には通俗的な曲調だと思われているのだろうし、どこかで聞いた曲感はあるのだが、いいのである。「おしん」の曲は有名だが、名曲度では「いのち」に僅かに及ばない。ほかに坂田の曲で私が好きなのは、フジテレビのアニメーション世界名作劇場の「母をたずねて三千里」あたりだろうか。

 「カムカムエヴリバディ」の主題歌はさほど好きではなく、歴代朝の連続テレビ小説の主題音楽で私が好きなのは、「火の国に」(1976-77、田中正史)と「鮎のうた」(1980-81、小倉博)で、小倉など「みんなのうた」の「なかよし海さん」くらいしかほかの曲が見つけられない。誰それだからいい曲、という考え方は、当てはまらないことも多いのだ。