平岩弓枝が死去したので、吉川英治文学賞受賞のこれを読んでみた。この賞は、大衆文学系の重鎮が与えられる賞で、必ずしも作品の質を保証しないが、これは予想を裏切っていい小説だった。話は大石内蔵助らが切腹したあとの妻石束りくと不肖の息子・大三郎を中心とし、その中に回想の形で手際よく赤穂事件の概略がはさみこまれている。生き残った息子の大三郎は、忠臣義士の筆頭大石の息子として晴れがましく広島浅野家の家臣に迎えられるが、凡才、ないしはいくらか知能に障害があったらしく、放蕩にのめり込み、妻も二度離縁している。そのことに頭を痛めるりくに、華やかな討ち入りのあとの淋しい現実がうまく描写されていて、飽きない。さすがである。