馬場あき子と小笠原賢二

2000年ころだったか、私は武蔵野女子大学(現武蔵野大学)の日本文学の専任の公募に出して面接に行ったら、普通そういうことはしてはいけないのに面接に来た人をみな同じ部屋に入れていた。私は隅のテーブルで喫煙していたら、向かいで喫煙していたのが文藝評論家の小笠原賢二だった。どちらも落とされて、しかし小笠原はその後法政大に決まったのだが肺がんが見つかり就職もなしになって、それからほどなく、58歳で死んでしまった。

 その小笠原の評論集『拡張される視野 現代短歌の可能性』(ながらみ書房、2001)に、短歌の結社中心主義を批判して馬場あき子に言い及んだ箇所があった。

「ところが馬場あき子などは、いたって楽天的だ。佐伯裕子を相手にこんなことを語っている。「無所属よりも結社からいい作家が育っています」「結社からしか出ないんじゃないの。無所属で新人賞をとった人、あとが苦しそうですね」(「短歌」一月号)自信満々である。自身が選考委員を務める角川短歌賞で昨年、最高の票を得た無所属の枡野浩一を落して、故意にか偶然にか自分の結社の歌人を入選させたことなどすっかり忘れているらしい。私などは、結社に属さなければ新人賞を取れないらしい、と馬場とはまったく逆のことを考えていた。「あとが苦しそう」なのも、つまりは無所属だと次第に干されるからではないのか、などとも考えたくなる」(455-6p)