井上一馬『『若草物語』への旅』アマゾンレビュー

若草物語への旅

星4つ - 評価者: 小谷野敦、2025年11月19日
私は「赤毛のアン」が大好きなのに、「若草物語」はどうしても好きになれない。それで本書を読んで
みた。これは書き下ろしの歴史文学紀行だが、第一章の一部は『別冊文藝春秋』に載ったということで、
その際の担当は明円一郎氏だったという。この人は知っていて、私が芥川賞候補になった時に電話をくれ
た人である。それはさておき、話はむしろルイザ・メイ・オルコットの父ブロンソン・オルコットが中
心で、エマソンの影響を受け、超越主義者、奴隷制度反対、菜食主義者の父は、学校経営やコミューン
の運営に失敗し、四人の娘のいる家族を養えず、妻に大きな負担をかけた。次女ルイザはエマソンやソロ
ーの影響を受けつつ、父が南北戦争に行っているという設定で『若草物語』を書いたという。だが本書
は、アメリカ植民地初期から、エマソンやソローの時代のアメリカ史のいい勉強になった。父ブロンソン
はそんな生活でありながら89歳まで生きたが、ルイザは一人で家族を支えて55歳で死んでしまったという
のが悲しい。思うに『若草物語』が事実に基づいていながら、父が南北戦争に行っていることにして(実際には60歳になっていたからありえない)父の真実を隠蔽したからではないかと思った。