「演劇界」という月刊誌がある。こんな題名だが歌舞伎雑誌で、戦前からある歴史ある雑誌で、特に難しい雑誌ではないが、専属みたいなライターが何人もいて、松井今朝子などもその出身で、ほかに如月青子とかいる。
私が大学一年の時、この雑誌の「歌舞伎特集」というのを買ったことがある。歌舞伎雑誌なのに歌舞伎特集は変だが、もしかすると、建前としては歌舞伎雑誌ではないのかもしれない。とにかく初心者向け案内みたいな特集号であった。
後ろのほうに門閥俳優すべてにコメントがついているのがあり、二代目尾上松緑は「せりふが、みんみんいう」とか割と悪口も書かれていた。ところが読んでいくと「この俳優は人に会う時」みたいな記述があり、はてなと思っていると、当時まだ中村梅枝だった時蔵のところで「人に会う時の気持ちが一定していない」と書いてあって、ははあこれは記者とか贔屓とかに会う時のことで、そんなことは藝とは関係ないし、普通の観客とは何の関係もないわけだが、歌舞伎俳優というのは記者とか贔屓に愛想を振りまいて生きていないとこういうことを書かれるという世界なんだな、と理解したわけである。今もそうだかどうだかは知らないが少しはそういうところも残っている。