「分断が進む」って何だ

葉真中顕の、ブラジルの「勝ち組・負け組」抗争を描いた『灼熱』の帯の下のほうに「分断が進む現代に問う、傑作巨編」とある。勝ち組負け組抗争は、ブラジルの日本人コロニーにおける「分断」には違いなかろうが、現代における「分断」とは何ぞや。昨年あたりからこういう言い方が散見されるのだが、政治的に国民があっちとこっちに分かれることなら70年前だってそうだったし、むしろ戦争中のほうが分断したくてもできない状態だった。つまり普通のことなのに、なんで「分断が進む」とか言うのだ。

 アメリカ大統領選が終わったあとで、勝者つまり勝った側は、大統領選における「分断」を言い、これからは融和しようなどと言うが、これはまあ紋切り型のあいさつである。

 別に今特別に分断しているわけではないんじゃないか。帯はもちろん、著者の責任ではない。

小谷野敦