流産した対談シリーズ

コロナが三年目の暮れに入ってまた感染者が増えつつあった十二月八日、つまり真珠湾攻撃の日に、その「飛び加藤」からのメールが突然やってきた。前にツイッターにいて、何か言葉を交わした、私の著作のファンらしい、五十がらみの男性だった。彼は、私と誰…

伊藤詩織「裸で泳ぐ」書評「週刊朝日」12月16日号

伊藤詩織は、ある意味、偉大な人物である。性暴力の被害者でありながら、顔と実名を出してそれを告発し、落合恵子が『ザ・レイプ』で書いたのをはるかに上回る壮絶なネット上の誹謗中傷、つまり二次レイプを乗り越え、検察が犯人を不起訴処分にしたり、逮捕…

平山瑞穂「エンタメ作家の失敗学」アマゾンレビュー

本書には著者が手がけてきた小説の内容がかなり詳細に紹介されているのだが、読めば読むほど、(売れないだろうなーと思わせる。特に「僕の心の埋まらない空洞」に関しては、どうして編集者がOKを出したのか理解に苦しむくらいである。「バタフライ」に関し…

著書訂正

「直木賞をとれなかった名作たち」 15p「人命を冠した賞」→「人名」 64p「人間臨終図鑑」→「図巻」 94p「菅野スガを描いた『余白の春』」→「菅野スガを描いた『遠い声』や、金子文子を描いた『余白の春』」 192p 「天動説」→「地動説」三か所 213p「帚木…

「思考の整理学」(外山滋比古)アマゾンレビュー

5つ星のうち2.0 あまり感心しない 2023年1月13日に日本でレビュー済み 著者が60歳の1983年の、つまり40年前の本なので、カードとかノートとか現代に合っていないのは仕方ないとして、対象読者が学生と学者にかたよっており、普通の勤め人に当てはまらない。…

著書訂正

「徳川時代はそんなにいい時代だったのか」 p、74「沖方丁」→「冲方丁」

音楽には物語がある(49)「veni,vidi,vici」とベルリオーズ 「中央公論」1月号

先日から塩野七生の『ローマ人の物語』を読んでいて、今アウグストゥス歿後のところまで来た。これは一九九二年に刊行が始まったものだが、私は読もうと思いつつ、どうも古代ローマというのは興味がわかず放っておいた。古代ギリシアの悲劇や神話やホメロス…

故郷七十年 (講談社学術文庫) 柳田国男 アマゾンレビュー

皇国史観とか星3つ 、2023/01/02私は柳田国男が嫌いだが、1958年から神戸新聞に連載されたこれは自伝でもあり、文章も昔より平易でいいと思った。しかし新体詩人であったことと、失恋をきっかけに文学をやめたことは前から言われていた通り書いてない。そう…

著書訂正

「直木賞をとらなかった名作たち」 75p 「しかし文学賞はとらなかった」→「野間文芸賞受賞」

「水俣曼荼羅」アマゾンレビュー

天皇登場で台無し星3つ 、2022/12/17はじめはだれて長いなあと思うが、中盤から面白くなってきて、熊本県や環境省との対決は白眉なのだが、そこへ天皇が水戸黄門みたいに出てきて、いっきに台無しになる。別に原一男が悪いわけではなく、原は石牟礼道子の手…

ホンネとホント

私は大学四年の時に、地元の出身中学校で二週間の教育実習をしたのだが、成績はBで、きっといい成績ではないのだろう。結局、「教育原理」を落としてしまい、朝一限に家から遠い駒場で開講されるこれを再度履修できず、教員免許はとらずじまいになった。 そ…

著書訂正

「徳川時代はそんなにいい時代だったのか」 49p「常陸の名家・結城家」→「北関東の名家・結城家」

「黄禍論」の流行

先ごろ死去したドウス昌代のノンフィクション「日本の陰謀 : ハワイ・オアフ島大ストライキの光と影」(文藝春秋、1991)は、のち文庫になっているが、アマゾンを見ると中身のあるレビューが一つもなかった。 これは大宅壮一ノンフィクション賞と新潮学芸賞…

インベカヲリ★「私の顔は誰も知らない」書評 「週刊朝日」

インベカヲリ★は、写真家である。募集に応じて来た女性たちの、ちょっと不気味な感じの半ヌード的な写真を撮っており、『やっぱ月帰るわ、私』や『理想の猫じゃない』といった写真集を出し、木村伊兵衛賞候補になり、ニコンサロンで伊奈信男賞も受賞している…

音楽には物語がある(48)「きのう何食べた?」の中村屋 「中央公論」12月号

夏休み前に(といっても私は勤め人ではないから何かが休みになるわけではない)、アマゾン・プライムで、西島秀俊と内野聖陽がゲイ・カップルを演じるドラマ「きのう何食べた?」(二〇一九)を観ていた。原作はよしながふみのマンガだが、こちらは読んでい…

丸山健二という人

綿矢りさらに抜かれるまで、最年少23歳で芥川賞をとった丸山健二は、私が大学生のころ(1982-)「朝日新聞」紙上の小さなコラムに「ガキの小説」というのを書いていた。今のアメリカの小説は「ガキの小説」になってしまったというのだ。具体的にどういうもの…

それまでの否定

もう7年くらい前になろうか、私が何度めかの、中井英夫の「虚無への供物」はわけが分からないというのを書いた時に、斎藤慎爾が、安藤礼二の『光の曼荼羅』で論じられていると言っていたので、それを読んでみたら、安藤は、これまでの論者は「虚無への供物」…

昭和の「まじめ」

阪大へ就職してひと月ほどした五月ごろ、言語文化部が教養部から独立した十周年祝賀パーティーというのが開かれて、生協の二階の食堂に集まった。私らみなスーツにネクタイ姿だったが、一人だけ、ネクタイをしていない40代くらいの教員がいた。ヨコタ村上ら3…

ポモ崇拝者誕生の時

2002年の12月に、東大比較文学出身者による「恋愛」シンポジウムが行われた。その時、「ドン・ジュアン」の比較文学などは成立しないと、プリンストン大学に提出した博士論文で主張していたヨコタ村上孝之は、その話をして、「じゃあドン・ガバチョの比較文…

生殖器に電流を

私は英文科を出て比較文学の大学院に行ったが、二年目に英文科で高橋康也先生が開いている大学院のゼミに出席した。阿部公彦、河合祥一郎といった人たちがいた。そこで知り合ったT君は、法学部から英文科の大学院へ来た人で、親の命令でいやいや法学部へ行か…

対談集の夢

私は若いころ、山崎正和とか江藤淳みたいな有名文化人になりたかったが、結局それは半分くらいしかかなわなかったと言うべきだろう。 30代半ばで「もてない男」が売れた時は、もっと売れていくつもりでいたが、まあそうもならなかった。まあ当ての外れたのは…

音楽には物語がある(47)ウルトラヒーローと冬木透 「中央公論」11月号

劇映画「シン・ウルトラマン」を観に吉祥寺まで行ったのは、東京都での新型コロナ感染者数が千人を切った日の翌日で、電車に乗るのは二年四カ月ぶりだったが、感染者数はその日にはまた千人を越し、さらに三万、四万まで増えていて、あの一日しかなかったこ…

知らないで驚く

私が高校生のころ、予備校でもらった二枚折の冊子か何かに、予備校の日本史の教員が、「円座」を「わろうだ」と読むことをこないだまで知らなかったのでショックを受けた、と書いていた。そのあと、学問は難しいものだとでも続いたのだろうか。しかしこの人…

作家の取材と研究

吉村昭が、俳人・尾崎放哉の最晩年を描いた『海も暮れきる』を読んだ。放哉は私の好きな俳人だが、実に凄惨な最期だった。ところでこれは77-79年に講談社の『本』に連載されたもので、吉村は放哉歿後50年くらいで、小豆島へ行って関係者の話を聞いて書いてい…

夏目漱石と厨川白村

『アステイオン』に張競さんが厨川白村の伝記を連載している。これはミネルヴァ日本評伝選で予告されていたから、それになるのか、よそから出るのかは知らない。昨年の6月ころ、ふと読んでみたら、漱石が主宰する朝日文芸欄に白村が寄稿するので、漱石から白…

幕見席(最終回)

ところが、年が明けた二月ごろから「新型コロナ」というものが上陸したらしく、マスクを着けて外出から、二年生になるころには学校も休みになり、学校が再開しても、隣の級友や先生との間をプラスチックの板で隔離された生活になって、それが三年生になるま…

幕見席(5)

六月の中ごろ、梅雨どきで空は曇っていたが雨は降っていなかった。家へ帰ると誰もおらず、鍵を開けて入ったら、スマホにメールが来ているのを見つけた。それは母からで、すぐ電話してくれとあったから、どきりとしながら電話すると母が出て、具合が悪いので…

幕見席(4)

同じクラスで、成績もいい橋本君というのが、ある時人気のない階段で出会ったら、 「お、川波、お前さあ、歌舞伎好きなんだってな」 と話しかけて来た。 あまりいい話になりそうもないな、と思ったけれど、うん、と言ったら、 「あそこは梨園とかいって、御…

幕見席(3)

東銀座の駅で降りて、地上へ出たら、目の前が歌舞伎座だったから、はっと思った。はっと思うって歌舞伎座へ来たんだから歌舞伎座があるのは当然なのである。それまで、ストリートビューで歌舞伎座前の景色は何度も見ていたから、ああこれが歌舞伎座かあ、と…