アンリ・ロイエット「ドガ:踊り子の画家」

 私は創元社の「知の再発見」シリーズというのがけっこう好きなのだが、これなどに関して言うと、監修である千足伸行の名が、訳者の名より大きいというのは気に入らない。

 ヴァレリーの「ドガ、ダンス、デッサン」を読んで、ドガの伝記はないかと探したら見つかったのだが、もしかしたら日本でドガの伝記というのはこれしかないんじゃないかという気がする。

 結構私はこれを読んでドガが好きになったのだが、それくらいこれまでドガについてはちゃんと紹介されていなかったということかもしれない。だが、ドレフュス事件で反ドレフュス派になった反ユダヤ主義者だったというのは、これまでドガが敬遠されてきた理由でもあろう。長命を保ったが生涯独身で、かといって同性愛者でもなかったようだから、永井荷風みたいな人だと言う人もいたが、この本では娼婦と関係していたとか愛人がいたとかいうことは一切書かれていなかった。そのへん、もうちょっと掘り下げた本はないもんだろうか。

小谷野敦