ケン・フォレット(1949- )というアメリカの大衆作家は、前に「針の眼」というサスペンス小説を読んで、ドナルド・サザーランドが主演する映画も観たが、趣向が「鷲は舞いおりた」と同じな上、サザーランドが両方で似たような役をやっているのがおかしかった。しかし、まあ面白かった。
「大聖堂」は、12世紀英国を舞台としたそのフォレットの小説で、1991年に新潮文庫から矢野浩三郎の訳で全三冊が出ている。のちこれまたサザーランドが出演するドラマにもなっているが、今では新潮文庫版は絶版でソフトバンク文庫から同じ形態で出ている。
だが、私の周囲でこれが話題になったことはなかったので、読んでいなかった。先日、日本の校閲者が間違いを見つけたという記事を読んで、挑戦する気になって図書館で上巻を借りてきたが、その前にドラマ版の第一回の分をツタヤで借りて観てみたがあまり面白い感じはしなかった。
それでも、小説に取り掛かると、そこそこ面白い。主人公はトムという40歳くらいの建築師だが、身分が低く、建築の仕事からあぶれて、妻と、14歳のアルフレッドという息子と、それより幼いマーサという娘とでイングランドを旅している。豚だけが財産だったのだが、その豚を盗人に盗まれ、追いかけて格闘するが負けてしまう。次の町でその豚を持った男を見つけるが、男から買ったというので、盗人を見つけて金だけ取り戻そうと、男を見つけ出して格闘し、殺してしまうが、財布には金がなかった。
冬になって住む家もないのに、妊娠している妻が産気づき、野宿しながら男児を出産するが、妻は出血で死んでしまい、もう赤ん坊を養うことはできないからと、妻を埋めた上に赤ん坊を置き去りにして去る。だが、気が変わって男児をとりに戻るといなくなっている。だが、トムのところへ、エリンという不思議な女が、ジャックという幼い子供を連れて合流し、トムとエリンは事実上の夫婦になる。
実は男児を連れ去ったのは近くの修道院の修道士フィリップで、ヤギの乳で赤子を育てていた。だがフィリップはキングズブリッジ修道院へ行くことになり、院長が死んだ時に、司教の息子ウォールランから、司教が死んだら自分を司教に推すという条件で支持を取り付け、新しい院長になる。ところがその直後、すでに司教が死んでいたことを知り、フィリップは「図られた」と思う。ここは割とわくわくするところだ。
そのころ、ヘンリー1世王、つまり征服王ウィリアムの息子が死んで、嫡出の子供は娘しかなく、男子は船の事故で死んでいたため、ヘンリー1世の姉の息子のスティーヴンが即位する。ところが豪族のバーソロミュー伯が反乱計画をしていることを弟のフランシスから聞いたフィリップは、それを王スティーヴンに知らせる。
さてトム一家はキングズブリッジ修道院へ来るが、仕事がないと知ってがっかりするトムを見て、ジャックは、大聖堂が燃えてしまえば父の仕事ができるだろうと思い、放火し、大聖堂は焼けてしまう。仕事ができたとトムは喜ぶが、トムとエリンが正式な夫婦でないと知ったフィリップは、エリンとジャックを追放してしまう。
だがフィリップは、大聖堂再建の費用を王から出してもらおうと王宮へ出向くが、そこでは、バーソロミュー伯の領地を、バーソロミュー伯を倒した豪族パーシー・ハムレイがいて、領地を狙っていた。ウォールランも信用ならないと知ったフィリップは、ハムレイと語らい、領地を二人で二分することにして、これに成功する。
ここまでがだいたい上巻だが、これは日本でマンガにしたらいいんじゃないかと思った。
(小谷野敦)