大塚久雄『社会科学の方法 ヴェーバーとマルクス』(岩波新書、1966)

図書館で借りてきたのだが、1992年の42刷だからロングセラーである。社会科学というのは、自然科学と並べてどのように科学として成立するかを説いた本だというので借りてきてみたが、四つの講演や講義を並べたもので、ですます調で分かりやすいように見えつつ、実に厄介な本だった。そもそもそういう論題なら、古代ギリシア哲学に社会科学の起源はあったかとか、東洋諸子百家はどうかとか、そういうところから話が始まるだろうと思ったら、もういきなりマルクスでありヴェーバーである。しかもいきなり「というのは、科学的認識である以上、それは因果性の範疇の使用ということと、どうしても関連をもたざるを得ない」とあり、この「因果性の範疇の使用」というのがまるで分からない。昔から哲学書を読むと、この「範疇」という語が出てくるところで何だか分からなくなるのであった。

 さらに先へいくと、「かといって、ヨーロッパ起源のものと根本的にことなった非ヨーロッパ的な科学的認識などというものはあるものではないでしょう」などと断言してあり、ぎょっとせざるを得ない。

 私だって大塚久雄がどういう人かは知っているが、とにかくここでは『資本論』は清書のように扱われていて、「プロ倫」はそれに次ぐ地位にあり、社会科学について根底から考え直そうなどという姿勢は微塵も見られないわけで、これではこういう人たちにあきたらない若者がカール・ポパーに走ったのも無理はないと思ったのであった。

小谷野敦