杜遷と宋万は死んだ

これはトム・ストッパードの「ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ」を下敷きにして「水滸伝」の地味な二人でやってみようとしたが始まってすぐ力尽きたやつ。

 

杜遷と宋万は死んだ
                                 小谷野敦

杜遷:よう、宋万。
宋万:おお、杜遷か、久しぶりだな。
杜遷:久しぶりと言っても、王倫が林冲に切られた時以来ってわけじゃないよな。
宋万:まあ、そう言うなよ。俺たちの出番、なかったけどな。
杜遷:しかしあの時は、王倫体制が否定されたから、俺たちも粛清されるのかと思って怯えていたぜ。
宋万:気持ちは分かる。
杜遷:本当は朱貴も昔からいるんだけど、あいつは出店やってたせいか、特別扱いだったよな。弟の朱富まで出て来たし。
宋万:そうだよなあ。俺のあだ名は雲裏金剛だが、お前は何だっけ。
杜遷:摸着天だよ、忘れたのかよ。
宋万:ああそうだそうだ、忘れていたよ。
杜遷:ひどいね。
宋万:しかしそもそも、王倫の友達だったのはお前のほうじゃなかったか。
杜遷:そういうことになってるね。一緒に科挙に落ちて山賊になった、という、別に悪徳役人と対決したとか、そういうあとから来たやつらみたいな正義の人の属性なしだよ、俺は。
宋万:じゃあお前のほうこそ、王倫と一緒に殺されても文句言えなかったじゃないか。
杜遷:そうだろうね。でもあのあとは俺もお前も、林冲とか晁蓋とかにいろいろ気を遣って大変だった、って点では同じだろう。
宋万:まあな。席次は二番目と三番目だったのが、どんどん下がったからな。
杜遷:俺は一回だけ活躍したことがある。
宋万:ああ、あれか。呼延灼が攻めてきた時、副将の韓滔を赤髪鬼の劉唐と一緒に捕まえた時か。
杜遷:そうだ。
宋万:あれはまあ、誰でも良かったって感じはあったな。
杜遷:(むっとして)お前なんかそれ程度の活躍もないだろうが。
宋万:そうだなあ。宋江と同じ姓なんだがなあ。
杜遷:そうだよ、宋江が入ってきた時、お前と同じだなと思ったから、あとで首領になった時は、何かお前に出世でもあるんじゃないかとひやひやしたぜ。
宋万:昔の仲間の出世をひやひやするなよ。
杜遷:同じ姓といえば、最初に出てきた王進って消えちゃったままなんだが、あれ王倫と同じ姓だよな。
宋万:それはちょっと気になる。