売春婦差別について

 私は24年前、「セックスワーカーを差別するな」と呼号する澁谷知美に、そういうことを言うなら自分がアルバイトでもソープ嬢とかやってみるべきだろう、と言ったのだが、こないだふと、なんであんなこと言ったのかなと思ったのだが、あの当時は私は売春撲滅論者だったが、その後転向して売春必要悪論になり、売春防止法は改廃すべきだと思うようになったから、ともいえるのだが、あれは当時の澁谷が、松沢呉一アジテーションに載せられて浅野千恵とかをやたら攻撃したり、売春婦がなぜ蔑視されるかについて珍妙な説を唱えたりしていたせいもある。

 しかし今でも、日常的な差別、たとえば隣に住んでいる人が元売春婦だと知ったら、普通の人づきあいは無理だろうというくらいには思っていて、これは現状では避けられない。コロナの時の給付金とかの話になると、まず合法化が先だろうという話になる。

 それに私は近世から昭和初年までの人身売買による売春を文藝に取り入れたりするのはもう耐えられないのだが、戦後の、借金によるものとか知能が低いとかいう人についてはまた別のとらえ方が必要で、むしろそれを何とかするために一律売春防止法で禁止しているのはまずいという考え方である。

 あと当時はやった「売るのはいいが買うのはいけない」みたいなのは全くの詭弁というほかないが、買う男が一律に悪いとも思わない。だが、売春をすることは当人の精神衛生のためにはよくないとも思っていて、だから「必要悪」なのである。

小谷野敦