春日太一『鬼の筆 ・・・橋本忍の栄光と挫折』アマゾンレビュー

12年かけて、晩年の橋本に取材した労作だけあって充実している。橋本が「三益愛子

の母もののように当てたい」という俗な意図から「真昼の暗黒」などを書いたことは、言われれば確かにそう感じる。私にとっては「幻の湖」のような怪作がなぜできたの

かが関心事だったが、経緯は分かった。ただあれには原作小説があり、橋本はそれ以

前にそれにつながる国際謀略小説のようなものを書いていたはずで、その点について

の言及がなかったのは不審だった。あと「BGMがない」とあったが、この映画は全編

にリストの「プレリュード」を流しており、その印象が強烈なので、春日が橋本の「

プレリュード」への思い入れに触れないのは不審だった。「砂の器」がすべての映画

会社から「当たらない」と言われたがヒットしたのは創価学会の力だったというの

は、聞いたこともある気はするがあらためてほおと思った。ほか気になった点は「あ

りき」の誤用、「侍ニッポン」が出てきた時に原作の郡司次郎正の名前が出てこない

こと、80pで「異教徒」と書いているのは、ネロ帝時代のことなら「キリスト教徒」

ではないのかといったことだが、これらは文庫化の際に直せばいいだろう。

 あと、私は橋本のシナリオを監督がかなり変えてしまった「風林火山」は、そのためもあって失敗作になったと思っているが、これへの言及もなかった。