西村京太郎は、前半生は賞はとるのに売れないという人生を送った人で、『天使の傷痕』という名作で乱歩賞をとったあと、生活のために総理府が主催した「21世紀の日本」という懸賞に長編小説『太陽と砂』を送って500万円という当時としては破格の賞金をかちえている。『西村京太郎の麗しき日本』というインタビュー本で、それへの対策として、選考委員が石原慎太郎、宮本百合子とフランス文学の権威だったので、それぞれ、日本を礼讃するのと日本を批判するのとを小説に入れたと言っている。だが1967年の話なので宮本百合子はもう死んでいる。「平林たい子かな?」と思ったのだが、川口則弘さんに調べて貰ったら、案の定、石原、平林、井上靖、芹沢光治良、山岡荘八の五人が選考委員だった。
(小谷野敦)