日本人必読の書かもしれない 5点
1971年に番町書房から刊行された、山田風太郎が22才の医学生だった1945年一年間の日記だが、実に分量は一年分としては膨大である。番町書房は十年ほど前、林房雄の「大東亜戦争肯定論」を出した出版社である。のちの作家・山田風太郎の、毎日内外の文学書を読み、敗戦までは「余」を一人称とした文語体、戦後は口語体になることもある文章は、こいつただもんじゃないと思わせるほどに文学的教養があり文章がうまい。しかし何といっても驚愕するのは、前半では戦争の大義に半信半疑だった著書が、敗戦とともにまるで熱烈な天皇主義者になったかのように饒舌に語り始めることで、年長の谷崎潤一郎や永井荷風とは全然違う、もうちょっと年若だったら江藤淳のようになっていただろうという軍国青年ぶりに驚き、敗戦後の半年でそれが少しずつ馴致されていくさまが実に興味深く、これは日本人必読の書だろうとすら思う。
講談社文庫版には橋本治の解説がついているが、山田の閲歴を紹介する部分はいいとして、そのあとはちょっとかしこまり過ぎてあまりいい解説にはなっていない。
(小谷野敦)