昨日判決文が届いた。削除請求すら認められない全面敗訴である。
 しかし驚くべきしっちゃかめっちゃかな判決文である。いったい、ミクシィのハンドルネームを変えた理由を説明しなければならないのだろうか。いわんや、筆名として「とん」にした理由などこの裁判と何の関係があるのか。あるいは、『禁煙ファシズムと戦う』にちゃんと出てくるジャムロジクという名前を、同書を熟読したはずの相手にわざわざ説明しなければならないのだろうか。第一、私の側の第一準備書面に対してあちらは何も答えていない。言うまでもなく、不当判決である。
 しかしこれを、裁判所も禁煙ファシズムなのだ、とするのは早計かもしれない。『週刊現代』の、相撲界における八百長を報じた記事を相撲協会が訴えた事件の裁判長であった中村也寸志という人が裁判長だからである。あれだけ証拠を出したのに「取材はきわめてずさん」という判決を出した人である。あの判決が出たからといって、本当に八百長がなかったと思う相撲ファンなど、よほど頭の中がお花畑の人ででもなければいないだろう。これでは著書を出して亡くなった大鳴戸親方も浮かばれまい。貴乃花ははっきりと、若乃花八百長横綱になったと言っている。しかるにこの裁判長は、若ノ鵬の承認申請を却下してまで、相撲協会を守ろうとしたのである。大江健三郎の『沖縄ノート』にしても、時効であるとしなかった以上、これ以上増刷すれば名誉棄損になることは、小林よしのりの言うとおりだし、曽野綾子の『ある神話の背景』(1973)が出た時点で、自身の記述に疑問を抱いてしかるべきだったろう。
 まあ、司法が行政のしもべになっている現状では、こういうトンデモ判決が出るのも致し方ないか。どうやら被告は、支援者への感謝を述べつつ、最も感謝すべき裁判長の名をあげるのを忘れたようだが、検索されると変な裁判官であることが分かって困るからであろうか。
 実は私は、被告からの分厚い答弁書が届いて、裁判とは関係ないことがずらずら書き並べられているのを見て(それを中村は取り上げてしまったわけだが)、さらに、弁護士を雇わず当人が出廷した時に、もう気持ちが悪くなっていた(君の顔から何からすべてが気持ち悪かったのである)。こんな不気味な奴はいないと思って、早く終わらせたかった。まあさすがに、負けるとは思わなかったがね。「ウンコタレ」なんて書いて削除も認めないのだから、真昼の暗黒だ。
 『大日本「健康」帝国』(平凡社新書)は、いい。平凡社新書はなかなかやるなあ。
 裁判所に正義を求めるのは間違いだと分かった。いや、分かるのが遅いと言われるだろう。しかし、私が被告を提訴したのは、匿名掲示板で「たばこ屋の看板娘だったお母様への感情が整理しきれないのでしょう」などと、亡き母を引き合いに出して私を揶揄したからだ。許せん、と思った。
 禁煙ファシズムとの戦いはなお続く。同志を委縮させたとしたら、申し訳ない。

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 「裁判費用」というのを誤解している奴がいる。裁判を起こす時は、切手を6000円分くらいに、請求額の100分の1くらいの印紙をつける。それのことである。だから原告敗訴の場合は、単にそれはあんたの負担だよ、ってことに過ぎない。被告敗訴なら、この場合23000円くらいを払うのだ。井上はねこは賠償金も裁判費用も踏み倒しているがね。

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http://d.hatena.ne.jp/counterfactual/20090919
ほかではけっこう冷静な人なのだが「ニコ中を強く疑ったほうがいい」って、強くも何も、はいニコチン中毒ですが、それが何か? である。私はこの世から酒がなくなっても平気だが、そんなの耐えられない、という人がいたらその人はアルコール中毒である。
 それに私は「分煙でいい」と言っているのに、なんで全面禁煙にするのか、と言っているのだ。最後にファシストの馬脚を現したな。

 (小谷野敦