私はYouTubeで「戸川純の人生相談」というのをずっと観ている。始まったのはコロナの頃だからもう六年くらいやっているが、私は20回くらいまで来たところで気づいて、それまでの分を全部観た。戸川と山口慎一が二人で出て、リスナーからの人生相談に答えるという体だが、要するに雑談ものと言っていい。私は若い頃から戸川純のファンで、『文學界』に載った戸川の初小説「狂女、純情す」が何とか本にならないかとちまちま運動しているが、何しろ私自身が、自分の本を出せないでnoteで売っているくらいだから心もとない。
さて、五日前にその「人生相談」の47回目が公開されて、早速観た。それは多分若い女の人からの、他人の目が気になるという相談だったが、戸川らは、他人はあなたのことなんか気にしてませんからと、ざっくり言えばそう答えていた。だが、それは果たして相談者の求める答えなのだろうか。この人生相談は、叱責することもあって、そういう時はロリータ・デブという別のキャラに戸川が扮して答えるのだが、この場合はそのつもりではあるまい。
人はどういうわけか、「他人の目が気になる」と言われると、「誰もあなたのことなんか気にしていない」系の答えをしてしまうものだが、それは当人が求めている、つまり安心したがっている答えではない。そういう人は、「人からよく思われたいがどうだか分からない、不安だ」と言っているので、「他人はあなたのことを気にしていない」と言われたらかえって不安になるだけである。
これは前にも書いたが、私も、カナダから帰ってきた29歳の頃、来日した鶴田欣也に会って、「誰もあなたのことなんか気にしていない、みんな忙しいんだから」と言われたことがあり、それは他人からの批判に対して恐怖を抱くなという意味だったらしい。それを聞いて私は「はあ、本を出してもあまり反応がないとがっかりしますねえ」と答えたら、鶴田は「えっ」と言っていたのは、この人にはもしかしたら意外だったのかもしれない。
では、どう答えればいいのかというと、一般論として適切な答えは存在しないのである。相談相手がどういう人で、どういう状況にあるか分からないと、霊能力者じゃあるまいし、回答のしようがないというのが本当なのである。
(小谷野敦)