大河ドラマとジャン・クリストフ

年末ころ、「大河ドラマ」という言葉の由来について、「チコちゃんに叱られる」というNHKの番組で紹介したいのでというメールが制作会社から来た。はじめはズームで打ち合わせをするという話だったので話していたら、いきなり「(私のビデオ出演は)なしになるかもしれません」と言われ、あれよあれよという間に、別の人に出演してもらうことになったとメールがあり、憮然としていたのだが、ウィキペディアの「大河ドラマ」のところを見ると、1964年1月5日の読売新聞に「大河ドラマ」とあり、その出典は『NHK大河ドラマ大全』なのだが、そこには読売新聞とあるだけで日付はなかった。

 私は実際に放送されたものは観ていないのだが、観た人がブログなどに書いたのを見ると、ロマン・ロランの『ジャン・クリストフ』が「大河小説」と呼ばれたのになぞらえて大河ドラマとされた、と放送されたらしい。しかしどこにいわゆる「NHK大河ドラマ」を「ジャン・クリストフ」に結びつけて記述したものがあるのかは不明である。問い合わせをしたら、アシスタントプロデューサーの野瀬という人から、「当時のNHKドラマ部長から聞いたお話や/専門家の先生が調べた資料と総合的に見て、/大河ドラマの名称は/人の一生を表す「大河小説」から作成され/大河小説の大元であるロマン・ロランジャン・クリストフから来ているとされると/紹介させていただきました。」との返事が来た。

 つまり実際には『ジャン・クリストフ』が元だなんてのは宛て推量に過ぎないんで、いい加減な番組だなあ、と思ったことであった。

小谷野敦