アマゾン訴訟始末

 アマゾンの提訴、敗訴した。
 2012年11月、アマゾン・ジャパンに対する訴状を東京地裁に提出した。これは私の小説『遊君姫君』に、「大河ドラマ渡辺淳一『天上紅蓮』の便乗作で、これがなければ書かれることもなかっただろう」という「大河好き」と称する者のレビューが載ったためである。「大河好き」はかねてから私にアマゾンレビューで盛んにからんでいたので、このレビュアーについての情報開示を求めたのである。『遊君姫君』は、あとがきで、七年ほど前から書いていたもので、大河ドラマに便乗して出す気にはなったが、合わせて書いたものではないと書いてある。
 私はアマゾンに、削除するよう要請したのだが、がんとして削除しないのである。以前は割と普通にこれくらいなら削除したのだが、なぜかしない。だいたい対応するのは「木島」というやつである。「感想の域を出るものではない」とか言うのだ。
 しかるにアマゾン側は、アマゾン・ジャパンは運営・管理をしておらず、電気通信事業者責任制限法の対象ではないと主張した。請求先は米国のアマゾン本社だと言うのである。2ちゃんねるやFC2などが用いる、サーバは日本にないといった、訴訟を防遏するための姑息なやり口である。しかし、この提訴の時点で「大河好き」のレビューは「紛争の拡大を避けるため」に削除された。
 だが、「日経キャリアネット」におけるアマゾン・ジャパンのPRには、「アマゾンを運営し」とちゃんと書いてあったし、社長のジャスパー・チャンも、インタビューで「運営」と述べていた。
 なお相手方弁護士は三宅・山崎法律事務所で、法廷へ来ていたのは一貫して中山達樹であった。あと毛野泰孝、新井由紀が連名である。
http://www.mylaw.co.jp/lawyers/nakayama.html
 アマゾン・ジャパンの重役はすべてシンガポール人ないしシンガポール関係だったし、中山もシンガポールへ行っているので何かあるのだろう。2ちゃんねるシンガポールにあるとされていた。中山は、第一回期日のあとは、私が素直に米国への切り替えをすると思ったのか、法廷の外で話しかけてきて、「はい、被告にそう申し伝えておきます」などと言っていたのが、私が反論してからは、口もきかなくなった。まあ、私もききたくはないが。
 また、ここに
http://www.kashikoi-ooya.com/2012/02/post_995/
http://amet.livedoor.biz/archives/53697558.html
 同一のアマゾンレビューについての苦情に対するアマゾン・ジャパンのメールがあがっていて、ここではっきり「プロバイダー責任制限法に基づき」と書いてある。実際に発信者に問い合わせて「開示していい」という返事が来るはずはないので、その後で提訴という流れになるもので、この文言では、アマゾン・ジャパンを提訴して開示させる、となるとたいていは思う。このケースでは、結局返事すらなかったようだ。
 そこで、それらの事例をあげて反論していったのだが、日経キャリアネットについては、あちらで作ったドラフトの確認を怠ったと言い、日経側から来たメールの写しを出してきた。また二月ころ、サイトの記述も変更されていて、アマゾン本社の紹介だけが載るようになった。
 しかし、日経キャリアネットが、いきなり独自にドラフトを作るはずがないので、アマゾン・ジャパン側から出した材料があるはずだ。だが、これは遂に提示を拒否した。さらにアマゾン本社からの覚書の翻訳というのが来て、アマゾン・ジャパンは情報開示の権限を持たないと書いてある。これがまた、署名のところに日付が書いてあったり、慌てて作ったことが明らかなもので、日付も2013年4月だったから、もしもともとそういう取り決めがあったなら、その時点での文書があるはずだと言ったのだが、これも提示を拒否した。
 さらに私は当事者照会書を出して、アマゾン本社に日本語の分かる者がいるのか問うたが、それはなく、日本の担当者がレビューの当否を判断している、ただしそれは本社が設けたガイドラインに沿っている、と言う。ついで、当該レビューについて、ガイドラインに反さないと判断した理由を問うたが、驚いたのはこれへの返答である。
 被告は、当該レビューの「便乗本」だと書いた二行を無視して、その下に四行ほどあった私の悪口の部分についての事実性を証明しようとしたのである。「便乗本」が名誉毀損に当たるという主張は訴状に書いてあるのである。そこでさらに上の二行についての説明を求め、それに回答があったのだが、姑息な手段でつまらん手間をかけさせる連中だ。
 このガイドラインについての解釈もまた奇妙で、「商品と関連のない内容で、個人を誹謗中傷する表現又は悪意を含む内容や表現」とあるのが、どうも「関連のない内容」かつ「誹謗中傷する表現」と解釈しているようで、「商品の内容と関連がある」のでガイドラインに反していない、と主張するのである。そこで私は「コミュニティ参加規約」の「誹謗や中傷、名誉を毀損するもの」と単独であるのを指して、これはどうか、と問うた。もっとも、これはもはや準備書面でのやりとりになっておらず、法廷で直接中山弁護士に訊いたのだが、中山は、「刑事上の名誉毀損には当たらないと判断しました」と言うから、当たり前だ、刑事じゃなく民事のことを言っているんだと言ったら、あれこれもごもご言ったあげく、「民事でも名誉毀損にならないと判断した」と言った。そんな細かな判断をしているなら、それはやはりアマゾン・ジャパンが「運営」し、独自の判断をしているのだ。
 同じころ、大塚ひかりさんも、自著への悪意あるレビューを書かれてアマゾンに抗議したが、削除を拒否されていた。その回答の一つに、「また万一投稿者のお客様の勘違いや誤認であっても、当サイトではすべてのレビューは事実に基づいて投稿いただいているものと信頼し、審査をさせていただいております。」とあって、当初意味不明だと思ったのだが、事実誤認であるかどうかについて調査はしないということらしい。だがそうなると、誤認であると指摘している著者は信頼しないという意味なんであろうか。
 アマゾンは本社が米国にあるとして日本への納税も拒否し、裁判所もこれを認めるという状態で手におえない企業である。これではまるで治外法権だ。
 さてしかし、「大河好き」の正体は、菊田若菜とかいう女らしい。これは津原泰水氏にも確認してもらった。菊田は、津原氏が、作家・川上未映子が盗作をしていると指摘したあとで、2ちゃんねるで津原氏に対して、刑事問題になるくらいの名誉毀損発言を書き込んだ者である。私は川上の件については、盗作ではないだろうと言っていたのだが、津原氏の手下の、明大の大学院へ行ったとかいう「烏賊娘」と名のる男が、盛んに「川上未映子問題」とかいってウェブ上に書き込んでいた。烏賊は私にも質問してきたのだが、いかにもうさんくさいし、匿名の人間をあまり相手にしたくないので半ば放置しておいたし、烏賊がつづけてあげてくる「盗作」の指摘は、かなりキチガイじみたものになっていた。
 津原氏は弁護士を使って2ちゃんに情報開示させ、この若菜を提訴していた。2012年の夏ごろ、ツイッターで話しかけてきた女らしい者があって、津原相手に裁判をしていると言っていた。それで相手をしていたら、烏賊が、私を「間抜け」と言った。どうも私は意味が分からなかったのだが、うるさいので津原氏に連絡したら、この女が菊田若菜で、2ちゃんやウィキペディアで私の悪口を書いているということを示してくれた。それで私は、そのことをツイッターで言ったら、若菜が直後に「大河好き」としてアマゾンを荒らし始めたというわけ。
小谷野敦
(17日付記)
 なお上記につき、13日に津原氏よりメールを貰ったが、それが掲示板にそのまま記されている。
http://6300.teacup.com/osamun/bbs/4975
 私は昨年11月に津原氏から「『大河好き』は間違いないですね」としたメールを貰っている。そのことはすぐメールで指摘したのだが、掲示板がそのままなのはどういうわけか。
 「烏賊娘」が「読者」だというのは、栗原裕一郎に津原氏が出したメールを見ても、電話で聞いた話からも、とてもそうは思えない。また「盗作とは言っていない」という件も、市川真人に出した公開質問状を見る限りそうは思えない。菊田の攻撃がそれ以前からだというのは確認できないが、それはなぜなのか、津原氏に訊いたのだが返事はなかった。また市川宛を見ても、盗作だと指摘したから攻撃されている、としかとれないのはなぜか。