90年の夏にバンクーバーへ行って外国人向けの英会話のセミナーに出たら東大三年生の佐野真由子がいた。真由子は帰国後、小谷野さんに会ったと滝田先生に話したら驚いていましたと手紙をよこしたので、私は返事で、滝田先生って滝田文彦?滝田佳子?と書いたら、滝田佳子先生です、文彦という方は存じ上げないですと書いてきた。滝田文彦は30年3月生まれだからその年の春には定年になっていた。私も滝田文彦は翻訳家として名前を知っていただけで、あとは卒業アルバムで若いころの俳優みたいな二枚目の写真を見ただけで現物は知らなかった。調べたら花柳はるみという女優と実業家の間の息子だったから、それで顔がよかったのか、まあ父親のほうも二枚目だったんだろう。前世紀のうちに死んでしまった。佐野真由子は大学院も行かなかったのに日文研准教授から今は京大教授になっている。「なしくずしの死」を滝田の訳で読んでいて気付いたことである。