大岡昇平『歌と死と空』アマゾンレビュー

『花影』の副産物

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1960年から「報知新聞」に連載され、62年に光文社から出た長編推理小説。ちょうど「純文学論争」をやっていたころ、自分でも推理小説を書いていたわけだ。犯人当て

推理小説は好きじゃないのだが、面白く読めるのは文体が推理作家のそれとは違う

のと、これが『花影』の副産物であることに気づいたからだ。大岡の愛人だったが、

複数の男にもてあそばれて自殺(58年)した坂本睦子は、この推理小説で自殺した歌

手に重ね合わせられ、もてあそんだ男たちが次々と殺される。大岡自身は橘という作

曲家で、最後のほうで犯人を当てる歌子というのが白洲正子あたりなのだろう。

 

小谷野敦