星2つ - 評価者: 小谷野敦、2025年10月3日
著者は早稲田の英文科卒だが、英文科でシェイクスピアを教えていなかったとあって驚いた。かつて坪内
逍遙が教えていた早稲田の英文科で。著者の指導教員は作家も兼ねた小沼丹だったというが、おそらく大
井邦雄という助教授が、エリザベス朝のシェイクスピア以外のつまらない戯曲を教えていたのだろう。し
かしシェイクスピアは翻訳で読むこともできるのに、著者はハート・クレインなどのアメリカのつまらな
い小説を読んでしまったという。さらにポオが偉大な作家だと分かったという。まあそれはいいのだが、
のち英語を教えていた時の話も出てくるが、英語は地道に一語一語訳読すればいい、ということが分かっ
ているのかどうか、疑わしかった。夫人といっぺんの見合いで結婚する話も面白かったがやはり無気味で
ある。そして「源氏物語」が苦手だとあるのを見て、私はこの人の小説が少なくとも私には少しも面白く
ない理由が分かった。私にとって文学の二大ピナクルがシェイクスピアと「源氏物語」なのに、この人は
そのどっちにもあまり関心がないらしい。とにかく奇妙な小説家だというほかない。