昔の孤独

私には、テレビがない時代に人がどうやって夜を過ごしていたかは想像するしかない。都会なら近所の寄席へ出かけたりしただろうが田舎ではそれもないから、せいぜい近所で酒を飲むとか将棋を指すとかくらいしかない。

 同じように、2000年ころからあとに生まれた人は、私らの若いころ、一人暮らしをしているといかに孤独だったかが分からないかもしれない。メールもないしネットもないしツイッターもないのである。

 私が大阪で一人暮らしをしていたのは94年から99年の五年だけだが、最初の三年くらいはひどく孤独だった。大学の仕事を終えて帰ってくると、それから夜寝るまで誰とも話し相手がいないのである。たまに用事があれば人に電話できるが、用事がないと電話できない。メールは存在していたが私も周囲の人もやっていなかった。そのうち神経を病んで、夜中知り合いの編集者にファックスを送ったりしていた。本は出したが仕事の依頼が全然なかった。

 神経を病んでから、夜中に、どうしても耐えられなくなったらマンションを出たところにあるコンビニへ行けば人がいる、と考えたこともある。だからテレビドラマとか観ると、若くて結婚もしていない連中がしょっちゅう他人と一緒にいるんで、こんなことがそうそうあるか、と思ってしまう。