かわいそうな司馬遼太郎

 ネット上に司馬遼太郎の作品書誌がないので作ろうと思い、以前作成したものを補うため、『司馬遼太郎全作品大事典』(新人物往来社、2010)を借りてきたら、初出は書いてあるのに単行本の刊行年月がないものがある。巻末に作品年譜があるのだが、それにも『日本人を考える』という対談集の刊行年月がない。そこで『司馬遼太郎事典』(志村有弘編、勉誠出版、2006)を借りてきたら、それは分かったのだが、『翔ぶが如く』第一巻の刊行が書いていない。
 これは奇観で、『全作品大事典』は、1976年2月に『翔ぶが如く』第二巻が出たことになっており、『事典』では、76年2月に「三巻」が出たことになっているが、いずれも「一巻」については記載なし。
 で、1981年作成とある、『歳月』講談社文庫版の巻末年譜を見たら、やはり「一巻」の記載がなく、76年2月に「三」が出ている。つまり『全作品大事典』も『事典』も、この年譜をもとにして調べなかったから、一巻がいつだか書いてないのである。国会図書館OPACは、一部を除いて、1976年以降、刊行月を記すようになっている。これらの編著者は、ああOPAC見ても分からないや、というのでなしにしてしまったのだろうか。
 私が調べたところでは、「一」は1975年12月、「二」が76年2月、「三」が3月、「四」が4月である。
 いずれにせよ、国民作家と謳われながら、まともな書誌も作ってもらえない司馬遼太郎がかわいそうだ。
小谷野敦