西部邁と秋山祐徳の対談本『ポップコン宣言』(カッパブックス)は1995年のものだが、中で、前年ノーベル賞を受賞した大江健三郎を西部が批判して、実は前に、大江と対談がしてみたいと言い、編集者も乗り気になって、申し込んだら、あの方のことは存じ上げていますが意見が違うので、と言って断られたという。西部は、人づてだからそのままの言葉ではないかもしれないと思っていたが、今回、やはりそうではないかと思ったと言う。すると秋山が「ムチャクチャだ! それで戦後民主主義」とか言う。西部は、まずいと思ったのか、「忙しいし、西部は嫌いだから」と言うのが文学者として正しいだろう、と言うのである。
 対談を断るなんてことは普通にあることで、そんな時に「嫌いだから」なんて言うキチガイはあまりいないし、仮に言ってもそのまま伝えるわけがない。もし前段だけだったら、「おうそうか、西部、俺はお前と意見が違うんでぜひ対談したい」と言われるとまずいと思って、後段をつけ加えたのだろう。