ドナルド・キーンの勘違い?

 こないだ「東京新聞」の一面にドナルド・キーンが出ていて、『源氏物語』のウェイリー訳の話をしていたんだが、ウェイリー訳のほうが谷崎の現代語訳よりいいと書いて谷崎に謝り、谷崎が気にしていないと言ったとある。しかし、英訳と現代語訳を比較するのも変な話で、これはたぶんキーンの勘違い。1954年11月『文藝』に「私たちの見た日本文学」という座談会が載っており、キーン、サイデンステッカー、ヴァルド・ヴィリエルモ、中村真一郎が出席している。ここで、ヴィリエルモが急先鋒となって、割と谷崎を悪く言っており、キーンも、『細雪』はいいんだがプルーストのような深みがない、と発言、そのあと谷崎からキーン宛に、『文藝』の座談会は気にしていないという葉書が行っており、おそらくこれのことを勘違いしたのだと思う。 
 だがこの座談会、谷崎はけっこう嫌だったろうと私は思った。志賀直哉はみな褒めていて、谷崎は不当なまでに悪く言われている感じがするのだ。