三年前、国会図書館で

 2月最終日、国会図書館に行った。そこで妙な光景にでくわした。
 6階に食堂がある。食券を買う。カウンターに並んだら、隣にいた五十年配の男、突然、自分の焼き魚定職の魚の皿を突き出して「くせえくせえ! 代えてくれ!」と叫んだのである。おばさんが「はい、あの、これ、粕漬けなんですけど」と言う。確かに粕漬けである。そして臭いといえば臭い。しかし粕漬けとして普通に臭い程度に臭いだけである。が、おっさん、聞かばこそ、「くせえんだよ! 代えてくれ」と言う。おばさん、あら、とか言って相談している。しかしおいそれと別の魚が出るわけはない。男、「腐った魚でも出してんじゃねえか」と何か非常に苛立っており、「もういい! 伝票くれ伝票」と、食券代わりのレシートをもぎとると去っていった。 あれで払い戻しでもしたのであろうか。
 国会図書館というのは、どうも苛立つ場所である。出入りにゲートを通るから、閉塞感があるのは確かで、特に、全部コンピューターに変わってからは、分かりにくくなっている。おっさんは粕漬けを知らなかったのだろうか。それとも嫌いだったのだろうか。しかし理不尽な話であった。
 (昔のミクシィ日記より・小谷野敦