2015-01-01から1年間の記事一覧

『ひどミス』に、『少年ジャンプ』に、素人が投稿したひどい漫画が載ってしまった話を書いたが、『サザエさん』にもこれと似たひどい回がある。サザエさんが夏みかんか何かを食べて、「おー、すっぱい」と言っていて、三コマ目でワカメちゃんに、「ちょっと…

尾崎一雄の随筆集『ペンの散歩』には、志賀直哉の「大津順吉」を、若い頃私小説と知らずに読んで、それでも感銘を受けた話のあと、こういう文章が続く。 「私小説」(ならびに所謂「心境小説」をも)まるでインドのアンタッチャブル階級視する世の批評家諸氏…

『大江と江藤』で橋川文三に「ぶんぞう」とルビを振ったのだが、これが「ぶんそう」とされているのは知っていて、しかし実際に「ぶんそう」なんて呼んでいた人はいまいと思い、『日本近代文学大事典』でも「ぶんぞう」だし、「ぶんそう」と振るのはなんか半…

小説で雨が降る

大学時代、「児童文学を読む会」で宮澤賢治の「ポラーノの広場」をとりあげた読書会があったのは1984年5月10日、私が英文科に進学したばかりの時である。間違えて戯曲「ポランの広場」を読んできた人もいた。出題者(レポーター)は今名古屋大教授のフィンラ…

プクステフーデ?

アマゾンで高野史緒さんのコメントをいただいたので、デビュー作『ムジカ・マキーナ』を読んでみた。ハヤカワ文庫版である。1870年頃のヨーロッパを舞台にした音楽SFで、登場人物が時どき変な方言をしゃべる。「だけんど」と三河弁が入り、そのあと大阪弁…

「モデル小説でウソを書いてはいけない」というのを書いたが、あのタイトルは分かりやすくしただけで、たとえば名前を変えるのは当然として(ただし檀一雄の『リツ子』のように実名でも小説にはなる)、場所を変えるとか時間をずらすとかいうのはありうる。…

私大生

大江健三郎の出世作にして初期の代表作である「奇妙な仕事」は、私は二番煎じの「死者の奢り」や芥川賞受賞作「飼育」より優れていると思う。 その中に「私大生」とあるのが、どうも私大出身者の反感を買っていたらしく、岡庭昇なども批判していて、岩波文庫…

モデル小説でウソを書いてはいけない

昨年6月11日のことである。小林拓矢からの紹介だと言って、某出版社の若い編集者から企画の打診があった。渡辺淳一論を書いてほしいというのである。私はそれ相応に関心があったので、18日に編集者と浜田山で面談し、書く方向で話は進んだ。編集者は、社内で…

西尾幹二に名誉毀損で訴えられたという中川八洋の『脱原発のウソと犯罪』を図書館で借りてちらちら読んだら、確かにむやみと口汚くかつ「コリアン宮台真司」とか根拠もなく書いているのだが、おおむね首肯できる内容であった。しかしそれなら江藤淳も批判し…

「お前」と呼ぶお前は

『ペリーヌ物語』の主題歌で「お前を見守る星が」とある。ペリーヌを「お前」と呼んでいるこれは何者であろうか、ということが気になって、主題歌における「お前」について考えた。 歌謡曲なら、男が女を「お前」と呼ぶことはある。 ほか『母をたずねて三千…

正かな正漢字で書かないわけ

http://yondance.blog25.fc2.com/blog-entry-4227.html 「本の山」の土屋君が私の恥ずかしかった話を書いてくれているから、サービスしてもう一つ恥ずかしかった話。 私が進学した大学院は「右翼」教授が牛耳っており、中に小堀桂一郎先生がいた。小堀さんは…

一人芝居

『このミステリーがひどい!』に出てくる中学時代の同級生で「マゴベエ探偵団」の録音を渡してきた男とは、教育実習で一緒になった。彼はどこの大学だったか、國學院とかそんな感じで、国語の教師だった。彼は大学で演劇活動をしていて、それは中学時代から…

『火車』と宇都宮健児

『火車』の筋を間違えていたらしい。これは2000年に出した『軟弱者の言い分』ですでに間違えていたのだが、あれはカード破産した女が別の女を殺してその女になりすます話ではなく、別の女を殺してなりすましたらその女がカード破産していたという話だった。…

「本の山」の土屋くんがやたらとひろさちやを読んでいるので、私も図書館で何冊か借りて読んでみた。すると、基督教も仏教も恋愛なんか勧めていない、むしろやめろと言っている、などと正しいことの書いてある本もあったが、いい加減な本もあった。『どの宗…

http://301.teacup.com/hikagemono/bbs/4436 こんなのがあったのだが、「S先生」って誰だろうなと考えたら島津忠夫であろうということになった。島津の著作集は大阪の和泉書院から出ているが、おぼめかすために京都にしたのだろう。

モデルは誰?

川口松太郎の『鏡台前人生』(産経新聞社、1970)は、1969年から70年産経新聞に連載された長編である。ここでは、昭和戦前期における、若宮様と藤間流の舞踊家との恋が描かれている。宮様は、明治維新の時に京都から動かなかった二条宮の貞親とされ、父の大…

島田清次郎

佐藤春夫の『更生記』を読んだ。1929年に福岡日日新聞に連載されたもので、島田清次郎事件をモデルにしているという。しかし結構入り組んだ作で、大場という学生が、夜中に鉄道線路で横たわっている女を見つけて連れ帰る。大場には三十過ぎた時子という姉が…

Old Dreamers

先日、江藤淳に関する鈴木孝夫の記述を読んだついでに、鈴木と田中克彦の対談本『言語学が輝いていた時代』をのぞいてみた。田中は左翼、鈴木は保守派とみられているが、田中がかねてチョムスキーを批判しているのは有名だが、鈴木もチョムスキーに批判的で…

凍雲篩雪(六月)

『文學界』の「新人小説月評」は、昨年後半期を阿部公彦と福永信が担当し、半年ごとのベスト5では、二人とも私の「ヌエのいた家」をトップにあげた。だが受賞は小野正嗣であった。そして小野の作品の『文學界』での書評で阿部はこれを賞賛し、ついで『ヌエ…

http://blogs.yahoo.co.jp/vraifleurbleu39/36704814.html 山下晴代さんは昔から、私の私小説の定義を認めないと言っているのだが、では山下さんはどう定義するのかということを一向に言ってくれない。今回「小林秀雄派」などと言い出したが、小林の「私小説…

谷崎潤一郎の隠し子?

『新潮45』八月号に、中村晃子(てるこ)「私は谷崎潤一郎の孫かもしれない」が載っている。著者は江尻雄次の妻須賀の孫である。 大正元年、汽車恐怖症のため大変な思いをして東京へ帰ってきた谷崎は、母の姉の持つ旅館真鶴館に滞在したが、そこの主で従兄の…

新刊です

ヌエのいた家作者: 小谷野敦出版社/メーカー: 文藝春秋発売日: 2015/05/29メディア: 単行本この商品を含むブログ (9件) を見るヌエのいた家 (文春e-book)作者: 小谷野敦出版社/メーカー: 文藝春秋発売日: 2015/05/29メディア: Kindle版この商品を含むブログ…

しりすごみ?

こないだからディケンズの『骨董屋』をちくま文庫の北川悌二訳で読んでいる。もとより、『キルプの軍団』の下敷きになったやつで、映画化されたのは観たのだが読んではいなかった。「さすらいの少女ネル」の題でアニメ化されたこともあるが、観てはいない。…

手下の遠吠え

http://www46.atpages.jp/mzprometheus/free/13266 今さら梅原猛批判でもなくて、『水底の歌』なんてトンデモ本なのは常識に属することで、日文研以外の国文科で梅原猛なんか持ち出したら袋だたきに遭うこと必至なんだが、この人は私の本を読んだことがない…

愛と執着

暑い中駒場の図書館へ行き、用を済ませてふと『日本近代文学』という学会誌(前世の遺物)を見たら、高根沢紀子(立教女学院短期大学准教授、埼玉大卒、日大修士、成蹊大博士中退)が、あのMの愚書川端論を紹介するのに、私の川端伝を引き合いに出して「両者…

新刊のようなもの

お嬢様放浪記 小谷野敦作品集作者: 小谷野敦出版社/メーカー: 猫猫塾発売日: 2015/06/20メディア: Kindle版この商品を含むブログを見る

「ヌエのいた家」短評

【ぴたっとライフ】<大人の本棚>「ヌエのいた家」 小谷野敦著 2015.06.30 夕刊 主人公は父を「ヌエ」と呼ぶ。元職人のヌエは教養に乏しく、「死んじまえ」と妻に暴言を吐く人物で、長年にわたり憎悪の対象だった。そんなヌエが惨めに死にゆく。幼少期から…

尾崎一雄の「ある私小説家の憂鬱」(『小説新潮』1959年10月)は、『愛妻記』という、尾崎の「芳兵衛物語」を原作とする映画の話が持ち込まれた時のことを描いたものである。普通なら随筆だが、尾崎だから小説である。尾崎原作の映画は、最初が「暢気眼鏡」…

凍雲篩雪

山家悠平『遊廓のストライキ 女性たちの二十世紀・序説』(共和国)がわりとよく書評されているが、私が覗いた限りでは、特段オリジナルなことが書いてあるとは思えなかった。ただし覗いただけなので、ここがオリジナルであると教えてもらえたらありがたい。…

共著・編

『京都図案家銘鑑』編 近代美術工芸社 1922 『帝国美術院の権威』芳川赳共著 美術春秋社 1930 『恩師を語る 京都篇』芳川赳共編 美術春秋社 1931 『日本美術院』芳川赳共著 美術春秋社 1931 西村五雲, 加藤英舟『岸竹堂伝』編著 荘人社 1932 『現代日本画家…