『火車』と宇都宮健児

 『火車』の筋を間違えていたらしい。これは2000年に出した『軟弱者の言い分』ですでに間違えていたのだが、あれはカード破産した女が別の女を殺してその女になりすます話ではなく、別の女を殺してなりすましたらその女がカード破産していたという話だった。しかしどっちにしてもろくでもない女(殺したほうがもちろんひどいが)でどっちでもいいという感じがする。
 その中で、カード破産するような人を愚かだと思いますか、そうではありませんと長広舌を揮う弁護士が出てくる。私は『軟弱者の言い分』でも『このミステリーがひどい!』でもこの弁護士の言い分を批判している。小説としてのバランスを崩すほど長いし、内容にも賛同できない。
 ところが今回ウィキペディアで見たら、これは当時宮部みゆきが取材した宇都宮健児が言ったことらしい。そうなると、取材した以上長々と書き込まざるを得ないといった事情もあったのかもしれない。
 弁護士というのは、バカの味方をしてもいいのだが、間違っているバカの味方をしてはいけない。
小谷野敦