高村光雲「幕末維新懐古談」レビュー

岩波文庫版で読んだのだが、これは青空文庫にも入っている(ただしバラバラなので注意が必要)。高村光雲の懐古ばなしを、大正11年に日曜ごとに光太郎と田村松魚が聞いて、松魚が筆記したものだが、ですますの語り口調でべらぼうに面白い。それはまあ、光雲が才能があって作品が評価されちゃくちゃくと出世していくということの、出世物語的な面白さには違いないのだが、長女の夭折とか、廃仏毀釈とか苦労をしたところもあって、それが時代の職人の精神でさらり、さらりと流していく、そこに何ともいえぬ清々しさを感じる。

 確かに意識は古めかしいのだが、それが嫌な感じがしないというのは、もしかすると田村がそういうところを削った可能性もあるのだが、筆記者田村もまた大したもので、近時久しぶりに面白いものを読んだ。

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