愛と執着

 暑い中駒場の図書館へ行き、用を済ませてふと『日本近代文学』という学会誌(前世の遺物)を見たら、高根沢紀子(立教女学院短期大学准教授、埼玉大卒、日大修士、成蹊大博士中退)が、あのMの愚書川端論を紹介するのに、私の川端伝を引き合いに出して「両者の違いは愛のあるなしである」と書いていたから、けっまた愛かよ、原善の弟子じゃないのかこいつは、と思って帰ろうとしたのだが、ふとそのあとに「執着と言い換えてもいい」とあったから、ああこれは皮肉かもしれないなと思った。執着といえば、狂気に通じる。 
小谷野敦)