小平麻衣子(おだいらまいこ)の<未熟>

小平麻衣子(慶大教授、日本近代文学)が「日本近代文学館」の館報で一ページ分の「配合と組み合わせ」というのを書いているが、何だか文章がぎごちなく、下手である。今度「日本近代文学大事典」の新版が出るので、その項目執筆をしていて、昔自分が書いた項目を見ていたら、「未熟」だと思ったという。ところがその理由が「事実の提示が多いこと」だと書いてあり、「この書き手ならではの独自な切り口」を求める人もいるだろうという話である。

 だが普通に考えたら、若いうちは、若気の至りであれこれ独自の見解を盛り込んだ「事典の項目」を書いてしまうのが「未熟」というもので、成熟してくると、そういうシャバっけは抜けて、サラサラと事実だけを提示するようになるというものではないか。ここでの小平の「未熟」のとらえ方は、普通とは逆である。

 もう15年くらい前だろうか、小平が文藝誌か何かに書いた、衒気満々の難解文章を、私は「第一回悪文大賞」に選んだことがある。当時、NHK講座で「尾崎紅葉」など、当時あまりやる人がいなかった対象を研究していて、好感を抱いていたのだが、その後はさすがに難解文章は影を潜め、実証的な研究をするようになった。しかしまた妙なことを言いだしたものだな、とちょっと苦笑したのである。

小谷野敦