岡嶋二人と母

 岡嶋二人という二人組の推理作家がいた。乱歩賞をとり、吉川英治新人賞もとったが、そのご解散して、片方だけが井上夢人の名で書いている。

 私が大学院生だった1988年ころ、両親とテレビを観ていたら、岡嶋二人原作のドラマの予告が流れたことがある。すると父が、「この岡嶋二人ってのは、二人で書いてるんだよな」と言った。すると突如母が、「なーにをまたお父さんいい加減なことを、ねーえ」と言って私のほうを見たから、私は、いや二人だよ、と言い、なんで母はこういうアホウなことを言いだすのだろうと思ったが、記憶では母は別に謝ったとも思えなかった。

 私は長いことこれを、父をバカにしたがる母の悪い癖だと思っていたのだが、今ふと考えたら、これはいちゃつきのつもりだったのではないかと思った。母はまあその、あまり頭が良くないので前後のことも考えず、私を巻き込んでそんなことを言ってしまったんじゃないかと思う。もっとも、母が生きていても、この件はまったく覚えていないであろうことは確実である。