将棋の思い出

二日ほど前から、youtubeで将棋の実況中継みたいのを見ていて、古舘伊知郎みたいな口調で解説するのが面白く、初めて将棋を面白いと思った。

 私は父が将棋好きで教えようとしたのだが全然面白くなく、分からなかった。大学生の時、私は北区滝野川の個人宅で東大生が教えるという個人塾で友人の紹介で中学生や高校生を教えていたのだが、一つ先輩に、関西から来た理系で現役の、いかにも頭が良くてパリピ陽キャな二人組がいて、圧倒される感じがした。

 休み時間に子供が将棋をしているのを見ていて、私はふと「これとったら」などと口を出した。するとそれを見ていたこの二人組の一人が「そんなもんとってどないするねん」と言ったので、私はぎょっとした。将棋が分からないのがばれてしまった、と思ったのだ。その後十年くらいしたら、私も図々しく、自分は将棋は分からないと言えるようになっていたが、その当時はまだそこまでの度胸はなかったのだ。

小谷野敦