まるで非論理的 2点
著者は数学のほうで業績をあげた人だが変人でもあり、戦後はおかしな宗教に入ったり日本民族論をやったりして、小林秀雄との対談が評判がよく、あれこれ随筆を書いて、これは毎日出版文化賞をとっている。一時忘れられていたが、ドラマ化されたせいか最近復活している。だが読んでみてその非論理的なのに呆れた。「ただちに」が自分の世代と今の世代でどう違うか比べるために、友人と連歌をやり、ストップウォッチで脇句をつけるのが十秒だったので、学生たちに「ただちに」解けるはずの問題をやらせたら三日かかった、「二万七千分の一の智力」だというのである。冗談にしてもバカバカしすぎる。それより前は、漱石は最後の「明暗」が一番進んでいるが「それから」あたりが読んでいて楽しいとか意味不明なことを言っているし、言葉の定義がまるで分からない、禅問答である。数学というのはインスピレーションで解くものだから、こういう非論理的なことを言うような人が出るんだろうがあまり持ち上げてはいけないと思った。
(小谷野敦)