渡辺憲司「江戸の岡場所 非合法<隠売女>の世界」レビュー

著者は前田愛の弟子の、近世戯作が専門だが、概して近世遊里のいくらか趣味人的な研究を読物に

してきた。これは岡場所に焦点を当てているが、四宿というより深川に力が入っている。視点は近

世江戸の富裕な町人のもので、最後に「跖婦人伝」を本気になって紹介するあたりは、中村幸彦

の、戯作は単なるちゃかしであって風刺の名に値しないという言をちゃんと受け止めていない。ま

た全体として下層娼婦にエモさを感じて、それを反骨精神だと思っているあたりは永井荷風、川端「雪国」の感性であろう。